「夜になると鳴き続けるようになった」
「家の中を目的もなく歩き回っているように見える」
「昼間はずっと寝ているのに、夜になると落ち着かない」
「今までできていたことが、少しずつできなくなってきた」
高齢の犬や猫と暮らしていると、年齢を重ねるにつれて、これまでとは違う行動が見られることがあります。
その原因のひとつとして考えられるのが、**認知機能の低下(認知機能不全)**です。
犬では「犬認知機能不全症候群(CCD)」などと呼ばれ、加齢に伴って脳の機能が変化することで、行動や生活リズムなどにさまざまな変化が現れることがあります。
猫でも高齢になるにつれて認知機能の変化が見られることがありますが、犬と比べるとまだ分かっていない部分もあります。
そして大切なのは、
「高齢だから仕方ない」
「認知症だから仕方ない」
と最初から決めつけないことです。
夜鳴きや徘徊、落ち着きのなさなどは、痛みや身体の病気、視力・聴力の低下などが関係して起こることもあります。
今回は、
- 高齢犬・高齢猫の認知機能低下で見られる変化
- 夜鳴きや徘徊が起こる理由
- 「認知症」と決めつける前に確認したいこと
- 自宅でできる環境づくり
- 昼夜逆転への対応
- 飼い主さんが記録しておくとよいこと
- 通院が難しい時の往診という選択肢
- 早めに獣医師へ相談したい変化
について、獣医師の立場からお伝えします。
- 高齢犬・高齢猫の「認知機能不全」とは?
- 犬の認知機能低下で確認したい「DISHAA」
- 猫でも夜鳴きや行動の変化が見られることがあります
- 「認知症だから」と決めつける前に確認したいこと
- 夜鳴きが増えた時に確認したいこと
- 徘徊する子では「安全に歩ける環境」を作りましょう
- 家具の配置を大きく変えない方がよいこともあります
- 昼夜逆転では「昼間の過ごし方」も見直してみましょう
- 夜は安心して休める環境を
- 生活リズムはできるだけ一定に
- 適度な刺激をなくしすぎないことも大切です
- 認知症に使われる治療がある場合もあります
- 行動を記録しておくと診察に役立ちます
- ご家族の睡眠や生活も大切です
- 通院そのものが負担になってきた時
- 認知機能が低下した犬猫に往診という選択肢もあります
- 往診だけですべてを判断できるわけではありません
- 急に行動が変わった時は「認知症」と決めつけないでください
- 認知機能の変化があっても、できることはあります
- 福岡市で認知症が心配な高齢犬・高齢猫の往診をご検討の方へ
高齢犬・高齢猫の「認知機能不全」とは?
犬や猫も年齢を重ねることで、身体だけではなく脳にも変化が起こります。
犬では、加齢に関連した神経変性によって認知機能が低下し、
今いる場所が分からなくなる。
生活リズムが変わる。
今まで覚えていたことが分からなくなる。
家族との関わり方が変化する。
不安が強くなる。
などの行動変化がみられることがあります。
こうした状態は、一般的には「犬の認知症」と表現されることがあります。
猫でも高齢になるにつれて似たような行動変化がみられることがあります。
ただし、行動が変化したからといって、それだけで認知機能不全と診断できるわけではありません。
まず他の病気や身体的な原因がないか確認することが大切です。
犬の認知機能低下で確認したい「DISHAA」
犬の認知機能不全でみられる行動変化を整理する時に、獣医療では「DISHAA」という考え方が使われることがあります。
D:見当識の変化(Disorientation)
たとえば、
- 家の中で迷う
- 壁や家具の前で動けなくなる
- ドアの開く方向が分からない
- いつも通っていた場所で戸惑う
などです。
I:社会的な関わりの変化(Interactions)
以前は家族のそばにいた子が関わらなくなったり、反対に急に甘えるようになったりするなど、人や他の動物との関係が変化することがあります。
S:睡眠・覚醒リズムの変化(Sleep-wake cycle)
昼間によく眠り、夜になると起きて歩き回る。
夜中に何度も起きる。
夜鳴きが増える。
といった変化です。
H:トイレなど覚えていた行動の変化(House soiling)
今まできちんとできていた排泄を、違う場所でするようになることがあります。
ただし、排泄の失敗には泌尿器・消化器・関節などの病気が関係していることもあるため、「認知症だから」と決めつけないことが大切です。
A:活動性の変化(Activity)
目的もなく歩き続けるように見えたり、反対に活動量が減ったりすることがあります。
A:不安の増加(Anxiety)
ひとりになることを強く嫌がる。
家族の姿が見えなくなると落ち着かない。
以前は気にしなかった音や出来事に不安を示す。
といった変化がみられることがあります。
こうした行動がひとつあるから認知症というわけではありません。
複数の変化や、その子のこれまでとの違いを見ていくことが大切です。
猫でも夜鳴きや行動の変化が見られることがあります
高齢の猫でも、
- 夜中に大きな声で鳴く
- 落ち着かず歩き回る
- 生活リズムが変化する
- トイレ以外で排泄する
- 家族との関わり方が変わる
- 以前より不安そうになる
といった変化がみられることがあります。
ただし、猫の大きな声での鳴き方や落ち着きのなさには、
甲状腺の病気。
高血圧。
痛み。
腎臓などの病気。
視力や聴力の変化。
などが関係している場合もあります。
そのため、
「高齢の猫が夜鳴きする=認知症」
とは考えず、まず身体の状態を確認することが大切です。
「認知症だから」と決めつける前に確認したいこと
高齢犬・高齢猫の行動が変わった時に特に大切なのが、ほかの病気が隠れていないか確認することです。
たとえば、
夜中に歩き回る
という行動ひとつをとっても、
認知機能の変化。
身体の痛み。
トイレへ何度も行きたい。
喉が渇いている。
呼吸が苦しい。
不安がある。
など、さまざまな原因が考えられます。
また、
「最近怒りっぽくなった」
という変化も、認知機能だけではなく、関節などの痛みによって身体を触られることを嫌がっている可能性があります。
高齢になってから新しく始まった行動については、
「歳だから」ではなく、一度獣医師に相談してみる
ことをおすすめします。
夜鳴きが増えた時に確認したいこと
高齢犬・高齢猫の夜鳴きは、ご家族にとっても非常につらい問題になることがあります。
まず、
- 何時頃から鳴き始めるか
- どのくらい続くか
- 家族が近くへ行くと落ち着くか
- トイレへ連れて行くと落ち着くか
- 水を飲むと落ち着くか
- 身体を触ると痛がらないか
- 呼吸が苦しそうではないか
などを確認してみてください。
可能であれば、短い動画を撮っておくことも診察時の参考になります。
「夜だけの症状だから病院では見てもらえない」
ということはありません。
ご自宅で撮った動画や記録は、診察の大切な情報になることがあります。
徘徊する子では「安全に歩ける環境」を作りましょう
認知機能の低下などによって歩き回るようになった犬では、家具の間に入り込み、戻れなくなることがあります。
また、同じ場所を何度も歩くことで転倒したり、段差から落ちたりする危険もあります。
そのため、
- 家具と壁の狭い隙間を減らす
- 階段へ自由に入れないようにする
- 滑りやすい床へマットを敷く
- 尖った家具の角などに注意する
- 行き止まりになりにくい動線を作る
など、安全な環境を整えることが大切です。
歩くこと自体をすべて止めようとするのではなく、
できるだけ安全に動ける環境を作る
という考え方もあります。
家具の配置を大きく変えない方がよいこともあります
認知機能が低下している犬猫では、慣れた環境が安心につながることがあります。
そのため、必要がないのに家具の配置を大きく変更すると、かえって戸惑ってしまう場合があります。
食事。
水。
ベッド。
トイレ。
なども、できるだけ分かりやすく、利用しやすい場所に置いてあげましょう。
高齢になり足腰も弱っている場合には、
「トイレまで遠い」
「水飲み場まで歩くのが大変」
という問題も同時に起こることがあります。
必要に応じて水飲み場やトイレを増やすなど、その子の身体の状態に合わせた工夫も考えます。
昼夜逆転では「昼間の過ごし方」も見直してみましょう
昼間によく眠り、夜になると起きてしまう犬猫では、
昼間にできる範囲で、
- 窓辺などで自然な明るさを感じる
- 無理のない範囲で身体を動かす
- 家族と穏やかに関わる
- 好きな遊びや刺激を取り入れる
など、日中の活動を作ることを考える場合があります。
ただし、高齢の犬猫に無理な運動をさせる必要はありません。
心臓病や関節の病気など、運動量に注意が必要な子もいます。
その子の身体の状態に合わせて、
「昼間に適度な刺激を作り、夜は落ち着ける環境にする」
ことを考えていきます。
夜は安心して休める環境を
夜間は、
部屋が真っ暗になると不安が強くなる子もいます。
そのような場合には、小さな照明を使用することで周囲が分かりやすくなる場合があります。
また、
- 寝床をいつもの場所にする
- 水やトイレへ行きやすくする
- 滑りにくい床にする
- 室温を快適に保つ
- 急に大きな音がしない環境にする
なども大切です。
視力が低下している子では、家具や物にぶつからないよう、移動する場所を整理しておくことも役立ちます。
生活リズムはできるだけ一定に
認知機能の低下がある犬猫では、毎日の生活パターンが大きく変わることを負担に感じる場合があります。
可能な範囲で、
朝起きる時間。
食事。
排泄。
散歩。
家族と過ごす時間。
寝る時間。
などを大きく変えすぎず、一定の流れを作ることを意識してみてください。
もちろん、毎日まったく同じ時間にする必要はありません。
「次に何が起こるか分かりやすい生活」
を作ってあげるイメージです。
適度な刺激をなくしすぎないことも大切です
認知症が心配になると、
「刺激を与えない方が落ち着くのでは」
と思うこともあるかもしれません。
ですが、その子が楽しめる範囲で、
匂いを嗅ぐ。
家族と触れ合う。
好きなおやつを探す。
短い散歩へ行く。
簡単な遊びをする。
といった刺激を取り入れることも考えます。
高齢犬では、無理のない範囲での運動や環境への刺激などを組み合わせた管理が、認知機能不全への対応の一部になることがあります。
ただし、その子の身体の状態によってできることは異なります。
疲れさせることが目的ではありません。
「少し楽しい」「少し考える」「少し身体を使う」
くらいの刺激を、その子のペースで取り入れてください。
認知症に使われる治療がある場合もあります
犬の認知機能不全では、症状や身体の状態によって、獣医師が薬物療法や食事、環境への働きかけなどを検討することがあります。
ただし、
「夜鳴きがあるからこの薬」
「徘徊するからこのサプリ」
というように、すべての犬猫に同じ対応をするわけではありません。
持病。
現在飲んでいる薬。
行動変化の原因。
身体の状態。
などを確認したうえで考えます。
市販のサプリメントなどについても、現在使用している薬との組み合わせなどを考える必要があります。
使用する前に、かかりつけの獣医師へ相談してください。
行動を記録しておくと診察に役立ちます
認知機能の変化は、動物病院の診察室だけでは分かりにくいことがあります。
自宅では夜中に歩き続けているのに、病院では静かにしている。
ということもあります。
そのため、
- 夜鳴きが始まる時間
- 夜中に起きる回数
- 徘徊している時間
- 排泄の失敗
- 食事量
- 水を飲む量
- 睡眠時間
- 急に不安そうになる場面
などを簡単に記録しておくと役立ちます。
動画を撮れる場合には、
歩き方。
徘徊している様子。
夜鳴き。
同じ場所で立ち止まる様子。
などを記録しておくのもよいでしょう。
毎日細かく記録する必要はありません。
「いつ頃から、以前と何が変わったのか」
が分かるだけでも大切な情報になります。
ご家族の睡眠や生活も大切です
夜鳴きや徘徊が続くと、犬猫だけではなく、ご家族の生活にも大きな影響が出ます。
毎晩何度も起きる。
歩き続ける子を見守る。
排泄を手伝う。
家具にぶつからないよう付き添う。
鳴き止むまでそばにいる。
こうした生活が長く続くと、ご家族も十分に眠れなくなることがあります。
介護するご家族が疲れ切ってしまえば、在宅でのお世話を続けること自体が難しくなります。
そのため、
「犬猫の症状」だけでなく、「家族がどのくらい介護を続けられる状態なのか」
についても獣医師へ伝えてください。
夜鳴きで眠れない。
一人では夜間のお世話が難しい。
仕事との両立が難しくなってきた。
ということも、大切な相談内容です。
通院そのものが負担になってきた時
認知機能が低下している高齢犬・高齢猫では、環境が変わることで不安が強くなる場合があります。
動物病院への通院では、
自宅を出る。
車やキャリーで移動する。
知らない場所へ行く。
他の犬猫の気配を感じる。
待合室で待つ。
知らない人に身体を触られる。
という普段とは違う出来事が続きます。
若い頃は問題なく通院できていた子でも、高齢になり、認知機能や視力・聴力などが変化すると、以前より負担を感じるようになることがあります。
そのような場合には、通院方法について獣医師と相談してみてください。
認知機能が低下した犬猫に往診という選択肢もあります
動物病院への移動が大きな負担になっている場合には、獣医師がご自宅へ伺う往診という方法があります。
往診では、普段生活している環境の中で、
- 現在みられている行動
- 歩き方
- 食事や水分
- 排泄
- 睡眠
- 痛み
- 身体の状態
- 生活環境
などを確認します。
ご自宅だからこそ、
実際にどのような場所を歩いているのか。
どこで立ち止まってしまうのか。
寝床やトイレはどこにあるのか。
夜間どのような環境で過ごしているのか。
といったことを確認できる場合もあります。
往診だけですべてを判断できるわけではありません
認知症のような行動があったとしても、別の病気が隠れている可能性があります。
状態によっては、
血液検査。
血圧測定。
画像検査。
その他の詳しい検査。
などが必要になることがあります。
往診では実施できる検査に限りがあるため、必要に応じて設備の整った動物病院での検査をご提案することもあります。
そのため、
「認知症だから病院には行かなくていい」
ということではありません。
往診と動物病院、それぞれのできることを組み合わせながら、その子に必要な診療を考えていきます。
急に行動が変わった時は「認知症」と決めつけないでください
認知機能不全では、少しずつ行動が変化していくことがあります。
一方で、
昨日までは普通だったのに急に歩けなくなった。
突然ぐるぐる回るようになった。
急に意識がおかしくなった。
突然けいれんした。
急に壁へぶつかるようになった。
といった変化では、認知機能不全以外の病気も考える必要があります。
また、
- 呼吸が苦しそう
- 強い痛みがある
- 食事や水がとれない
- 繰り返し嘔吐している
- 尿が出ない
- けいれんが続いている
- 意識や反応が明らかにおかしい
などの症状がある場合には、早めに獣医師へ相談してください。
急激な変化を、
「歳だから」
「認知症が進んだから」
だけで片づけないことが大切です。
認知機能の変化があっても、できることはあります
高齢の犬や猫に認知機能の変化が現れると、
「もう歳だから、どうすることもできない」
と思ってしまうことがあるかもしれません。
ですが、
生活環境を安全に整える。
夜間も歩きやすくする。
水やトイレへ行きやすくする。
生活リズムを整える。
身体の痛みや病気がないか確認する。
その子に合った治療について相談する。
ご家族の介護負担について相談する。
など、できることはあります。
大切なのは、
「以前と同じ生活に戻すこと」だけを目標にするのではなく、今のその子が安心して生活できる方法を考えることだと思います。
そして、ご家族だけで悩まず、
「夜鳴きで困っています」
「徘徊が増えました」
「私たちも眠れなくなってきました」
と、そのまま獣医師へ伝えてください。
その子とご家族が少しでも穏やかに生活できる方法を、一緒に考えていくことが大切です。
福岡市で認知症が心配な高齢犬・高齢猫の往診をご検討の方へ
福岡犬猫往診クリニックでは、福岡市を中心に高齢犬・高齢猫の往診を行っています。
「夜鳴きや徘徊が増えてきた」
「認知症のような症状がある」
「環境が変わると強く不安になるため、病院へ連れて行くことが難しい」
という場合には、往診専用LINEからご相談いただけます。
▼往診についてのご相談はこちら
https://lin.ee/P5x6bjfZ
犬猫の状態によっては、往診ではなく設備の整った動物病院での検査・治療をご案内する場合があります。
福岡犬猫往診クリニック
獣医師 かわの わいちろう
※この記事は、高齢犬・高齢猫の認知機能低下や行動変化について一般的な情報をお伝えするものです。夜鳴き・徘徊・排泄の変化などは、認知機能不全だけではなく、痛みや身体疾患などによって起こる場合があります。新しい行動変化がみられた場合には、自己判断せず獣医師へご相談ください。
参考情報
- AAHA「2023 AAHA Senior Care Guidelines for Dogs and Cats」
- AAHA「Managing Cognitive Dysfunction and Behavioral Anxiety」
