高齢犬・高齢猫で手術をしない選択を考える時|できる治療とQOLを獣医師が解説

「高齢だから、手術を受けさせることに迷っている」

「手術をしないと決めたら、もう治療はできないの?」

「できるだけ苦しさを減らして、自宅で穏やかに過ごしてほしい」

高齢の犬や猫に病気が見つかり、手術をすすめられた時。

手術をするべきか。

手術をしない方がよいのか。

飼い主さんは大きな決断を迫られることがあります。

前提として知っておいていただきたいのは、

高齢だから手術を受けられないとは限らない

ということです。

年齢だけではなく、

現在の身体の状態。

持病。

病気の種類や進行。

麻酔のリスク。

手術によって期待できること。

術後の回復。

などを総合的に考えて判断します。

一方で、それらを確認したうえで、

「今回は手術をしない」

という方針を選ぶこともあります。

そして、

手術をしないこと=何もしないこと

ではありません。

今回は、

  • 高齢犬・高齢猫で手術をしない選択を考える時
  • 手術以外にできる治療
  • 緩和ケアとは何か
  • 痛みや苦しさをどう確認するか
  • 食事・睡眠・排泄・移動などQOLの考え方
  • 「良い日・つらい日」を記録する方法
  • 治療をどこまで続けるか
  • 一度手術をしないと決めたら変更できないのか
  • 自宅でできるケア
  • 往診で相談できること

について、獣医師の立場からお伝えします。

  1. 「手術をしない」という選択は、年齢だけで決めるものではありません
  2. 手術をしないことは「治療を諦めること」ではありません
  3. 「緩和ケア」という考え方があります
  4. 手術をしない場合でも「病気の経過」を確認することが大切です
  5. 「痛みがあるか分からない」時に見てほしい変化
  6. QOL(生活の質)を考えてみましょう
  7. 「食べられるか」は大切な変化のひとつです
  8. 「眠れているか」も確認してみてください
  9. 排泄ができているかも生活の質に関わります
  10. 「好きなことができているか」も見てみましょう
  11. 「良い日」と「つらそうな日」を記録する方法もあります
  12. ご家族ができる介護も治療方針に関係します
  13. 手術をしないと決めた後でも、方針を見直すことがあります
  14. 「手術をしない場合、次に何が起きたら連絡するか」を決めておきましょう
  15. 事前に「急変した時どうするか」も相談しておきましょう
  16. 痛みを和らげる治療も定期的に見直します
  17. 自宅環境を整えることで過ごしやすくなることがあります
  18. 手術をしない選択についてセカンドオピニオンを受けることもできます
  19. 通院が難しい場合には往診で治療方針を相談できることがあります
  20. 往診でも必要に応じて病院での検査をご提案します
  21. 「何もしない」のではなく「今できること」を考えていきましょう
  22. 福岡市で高齢犬・高齢猫の治療方針について往診をご希望の方へ
    1. 参考情報

「手術をしない」という選択は、年齢だけで決めるものではありません

高齢犬・高齢猫に手術をすすめられると、

「もう歳だから、手術はやめた方がいいのかな」

と思うかもしれません。

ですが、高齢という理由だけで手術を避ける必要があるとは限りません。

反対に、

「手術できると言われたから、必ず受けるべき」

とも限りません。

大切なのは、

その手術によって得られるメリットと、その子が受ける負担を比べること

です。

たとえば、

手術によって痛みの原因を取り除ける。

長く苦しんでいる症状を改善できる。

日常生活へ戻れる可能性が高い。

という場合には、高齢でも手術のメリットが大きいことがあります。

一方で、

複数の持病がある。

身体がかなり弱っている。

手術後に長期の入院や介護が必要。

手術をしても病気の進行を大きく変えられない。

といった状況では、別の治療方法について考えることがあります。

手術をしないことは「治療を諦めること」ではありません

ここは、とても大切なところです。

手術をしない方針を選んだ時、

「この子に何もしてあげられない」

と思う必要はありません。

病気によっては、

  • お薬で症状を抑える
  • 痛みを和らげる
  • 吐き気などの不快な症状を減らす
  • 食事をとりやすくする
  • 水分を補う
  • 呼吸を楽にする治療を考える
  • 傷や皮膚のケアを行う
  • 生活環境を整える
  • 定期的に身体の状態を確認する

など、できることがあります。

手術によって病気そのものを取り除くことが難しくても、

今ある苦しさを減らし、できるだけ穏やかに生活できるよう支える治療

を考えることができます。

「緩和ケア」という考え方があります

病気を完全に治すことだけではなく、

痛み。

吐き気。

呼吸の苦しさ。

不安。

食欲低下。

動きづらさ。

など、犬猫が感じているつらさを減らすことを目的とした医療を緩和ケアと呼びます。

緩和ケアは、

「もう治療ができなくなった時だけ始めるもの」

とは限りません。

病気を治すための治療を続けながら、同時に痛みや症状を減らすためのケアを行うこともあります。

そのため、

積極的な治療か、緩和ケアか

という完全な二択ではありません。

その子の状態に合わせて組み合わせることができます。

手術をしない場合でも「病気の経過」を確認することが大切です

手術をしないと決めると、

「もう検査もしなくていいのかな」

と思うかもしれません。

ですが、病気によっては定期的な状態確認が役立ちます。

たとえば、

腫瘍の大きさが変わっていないか。

貧血が進んでいないか。

腎臓や肝臓の状態はどうか。

痛みが強くなっていないか。

食べられているか。

体重が減っていないか。

などです。

病気の進行を把握することで、

薬を変更する。

痛み止めを調整する。

自宅でのケアを見直す。

治療方針そのものを考え直す。

といった対応ができます。

「痛みがあるか分からない」時に見てほしい変化

犬や猫は、人のように

「ここが痛い」

と話すことができません。

特に高齢犬・高齢猫では、

「歳だから動かなくなった」

と思っていた変化が、実は痛みと関係していることがあります。

たとえば、

  • 立ち上がるまで時間がかかる
  • 歩きたがらない
  • 階段を嫌がる
  • 触られることを嫌がる
  • 寝る場所を何度も変える
  • 落ち着かない
  • 食欲が落ちる
  • 呼吸が速くなる
  • 以前より怒りっぽくなる
  • 家族との関わりが減る

などです。

「痛そうに鳴いていないから大丈夫」

とは限りません。

普段との違いを観察し、気になる変化があれば獣医師へ伝えてください。

QOL(生活の質)を考えてみましょう

高齢犬・高齢猫の治療を考える時には、**QOL(Quality of Life=生活の質)**という考え方があります。

これは単純に、

「どれくらい長く生きられるか」

だけを見るものではありません。

たとえば、

食べられているか。

水を飲めているか。

眠れているか。

痛みや苦しさが強くないか。

排泄できているか。

自分で移動できるか。

好きな場所で過ごせているか。

家族との時間を楽しめているか。

といった、その子の日々の生活を見ていきます。

大切なのは、

その子にとって心地よい時間をどれくらい保てているか

という視点です。

「食べられるか」は大切な変化のひとつです

食欲は、犬猫の体調を見る大切な情報です。

以前好きだったものを食べなくなった。

少ししか食べられなくなった。

食べようとするけれど途中でやめる。

においを嗅ぐだけで食べない。

という変化があれば、

吐き気。

痛み。

口腔内の問題。

病気の進行。

薬の影響。

などが関係している可能性があります。

「高齢だから食が細くなった」

だけで終わらせず、獣医師へ相談してください。

食事内容や薬などを調整することで、食べやすくなる場合があります。

「眠れているか」も確認してみてください

痛みや呼吸の苦しさがある犬猫では、十分に眠れないことがあります。

横になってもすぐ起きる。

寝る場所を何度も変える。

夜中も落ち着かない。

呼吸が苦しくて横になれない。

という様子があれば注意が必要です。

高齢犬・高齢猫にとって、

安心して休めること

も大切なQOLのひとつです。

寝床の環境を整えるだけでなく、身体的な不快感がないか獣医師へ相談してください。

排泄ができているかも生活の質に関わります

高齢になったり病気が進行したりすると、

自分でトイレまで行けない。

排泄する姿勢を保てない。

尿や便で身体が汚れる。

便秘が続く。

ということがあります。

その場合には、

トイレを近くする。

滑りにくい床にする。

排泄を介助する。

身体を清潔に保つ。

といったケアを考えます。

排尿できない状態や、強くいきんでも尿が出ない場合などは緊急性があることもありますので、早めに獣医師へ相談してください。

「好きなことができているか」も見てみましょう

QOLを考える時には、病気の症状だけではなく、

その子らしい行動が残っているか

を見ることも大切です。

たとえば、

家族のそばへ来る。

好きなおやつを楽しむ。

散歩へ行きたがる。

日向ぼっこをする。

お気に入りの場所で眠る。

撫でてもらうと喜ぶ。

といったことです。

どの行動がその子にとって大切なのかは、一頭ずつ違います。

普段から、

「この子は何をしている時が楽しそうかな」

と考えてみてください。

「良い日」と「つらそうな日」を記録する方法もあります

毎日一緒に暮らしていると、少しずつの変化には気づきにくいことがあります。

そこで、

カレンダーやノートに、

今日はよく食べた → ○

今日は痛そうでほとんど動かなかった → △

など、簡単に記録する方法があります。

また、

食欲。

睡眠。

排泄。

痛み。

移動。

家族との関わり。

などについて一言ずつ記録する方法もあります。

「良い日より、つらそうな日の方が増えてきた」

という変化が、今後の治療を考えるきっかけになることがあります。

完璧に記録する必要はありません。

数週間前と比べてどう変わっているか

を見られるだけでも役立ちます。

ご家族ができる介護も治療方針に関係します

高齢犬・高齢猫の在宅ケアでは、ご家族による介護が必要になることがあります。

たとえば、

寝返り。

食事介助。

排泄介助。

投薬。

点滴。

身体を清潔にする。

夜間の見守り。

などです。

医学的には自宅療養を続けられる状態でも、

ご家族が毎晩眠れない。

一人では大型犬を動かせない。

投薬がどうしてもできない。

仕事との両立が難しい。

ということもあります。

こうしたことも、遠慮せず獣医師へ伝えてください。

ご家族が続けられる方法であることも、長期的なケアでは大切です。

手術をしないと決めた後でも、方針を見直すことがあります

一度、

「手術はしない」

と決めたからといって、すべての病気でその後絶対に変更できないという意味ではありません。

状態によっては、

病気が進行した。

症状が変化した。

手術のメリットが以前より大きくなった。

身体の状態が整った。

という理由から、再び手術について検討することもあります。

一方で、病気によっては手術できる時期が限られる場合もあります。

そのため、

「今手術をしない場合、あとから手術することはできますか?」

という点も、最初に確認しておくとよいでしょう。

「手術をしない場合、次に何が起きたら連絡するか」を決めておきましょう

手術をしない方針を選ぶ場合には、今後の変化について獣医師と話しておくことをおすすめします。

たとえば、

食事が○日以上とれなくなったら。

呼吸が変化したら。

痛みが強くなったら。

歩けなくなったら。

腫瘍から出血したら。

嘔吐が増えたら。

というように、

「この変化があったら相談する」

という目安を決めておく方法です。

急に状態が変化した時に、ご家族が判断しやすくなります。

事前に「急変した時どうするか」も相談しておきましょう

慢性的に進行する病気では、状態が急に悪くなる場合があります。

そのため、

夜間に急変したらどこへ行くのか。

救急病院へ行くのか。

どのような状態ならすぐ受診するのか。

移動が難しい場合はどうするのか。

などを、元気なうちに考えておくことも大切です。

特に、

  • 呼吸が非常に苦しそう
  • 意識や反応がおかしい
  • けいれんが続いている
  • 大量に出血している
  • 強い痛みがある
  • 急激に状態が悪化した

といった場合には、往診を待たず設備の整った動物病院での診療が必要になることがあります。

痛みを和らげる治療も定期的に見直します

最初は効果があった痛み止めでも、病気が進むことで十分ではなくなる場合があります。

反対に、体重や腎臓・肝臓など身体の状態が変化すれば、薬について再検討することがあります。

そのため、

一度薬を決めたら最後まで同じ

ではありません。

痛み。

食欲。

睡眠。

動き方。

副作用と思われる変化。

などを見ながら調整していきます。

自己判断で量を増やしたり、人用の痛み止めを使用したりしないでください。

自宅環境を整えることで過ごしやすくなることがあります

高齢犬・高齢猫では、病気への治療だけではなく、生活環境の工夫も大切です。

たとえば、

  • 滑りにくいマットを敷く
  • 水飲み場を近くする
  • トイレを利用しやすくする
  • 段差を減らす
  • 身体を支えやすい寝床にする
  • 室温を快適に保つ
  • 静かに休める場所を作る

などです。

特に足腰が弱った子では、

水を飲む、トイレへ行く、寝床へ戻る

という日常の動作そのものが大変になることがあります。

その子の現在の身体に合わせて環境を変えていきましょう。

手術をしない選択についてセカンドオピニオンを受けることもできます

「手術をしない方向で考えているけれど、本当にそれでいいのかな」

と迷う場合には、別の獣医師へ相談する方法があります。

セカンドオピニオンでは、

現在の病気。

これまでの検査結果。

手術によって期待できること。

手術をしなかった場合。

手術以外の治療方法。

などを改めて整理します。

別の獣医師も手術をすすめる場合もあります。

反対に、別の方法を提案することもあります。

大切なのは、

「手術しないと言ってくれる先生を探す」ことではなく、複数の選択肢を理解したうえで決めること

です。

通院が難しい場合には往診で治療方針を相談できることがあります

高齢になり、

病院へ連れて行くことが難しい。

寝たきりになっている。

大型犬で移動できない。

通院後の疲れが大きい。

という場合には、往診で現在の治療について相談できることがあります。

往診では、

身体の状態。

痛み。

食欲。

排泄。

歩き方。

寝床。

生活環境。

現在のお薬。

ご家族の介護状況。

などを確認しながら、自宅でできるケアについて考えます。

往診でも必要に応じて病院での検査をご提案します

手術をしない治療を選んだ場合でも、状態によっては検査が必要です。

血液検査。

画像検査。

その他専門的な検査。

などが必要になることがあります。

往診でできる検査には限りがあるため、必要に応じて動物病院での診療をご案内します。

「手術をしない=病院へ行かない」

ではありません。

その子に必要な医療を、病院と往診で使い分けることができます。

「何もしない」のではなく「今できること」を考えていきましょう

高齢犬・高齢猫の手術について迷った末に、

「手術はしない」

という選択をすることがあります。

その選択をしたあと、

「もっと何かしてあげるべきだったのかな」

と思うこともあるかもしれません。

ですが、医療には手術以外にもできることがあります。

痛みを減らす。

吐き気を抑える。

食べやすくする。

眠れる環境を作る。

排泄を助ける。

自宅を安全にする。

家族と落ち着いて過ごせる時間を大切にする。

そして、身体の変化に合わせて治療を見直す。

手術をしないことは、何もしないことではありません。

大切なのは、

「手術する・しない」

という選択だけでなく、

その選択をしたあと、その子がどう過ごせるかを一緒に考えていくこと

だと思っています。

福岡市で高齢犬・高齢猫の治療方針について往診をご希望の方へ

福岡犬猫往診クリニックでは、福岡市を中心に高齢犬・高齢猫の往診を行っています。

「手術をしない方向で考えているけれど、今後の治療について相談したい」

「できるだけ苦しさを減らしながら、自宅で過ごさせてあげたい」

「今の治療方針について別の獣医師の意見も聞きたい」

という場合には、往診専用LINEからご相談いただけます。

現在治療中の場合には、

検査結果。

現在のお薬。

診療明細。

これまでの治療内容が分かるもの。

などをご準備ください。

▼往診についてのご相談はこちら
https://lin.ee/P5x6bjfZ

犬猫の状態や必要な治療によっては、設備の整った動物病院や専門施設での検査・診療をご案内する場合があります。

福岡犬猫往診クリニック
獣医師 かわの わいちろう


※この記事は、高齢犬・高齢猫の手術を行わない場合の治療や緩和ケア、QOLについて一般的な情報をお伝えするものです。手術の必要性、手術以外の治療方法、痛みの管理などは病気や身体の状態によって異なります。治療方針については、検査結果や現在の状態を確認したうえで獣医師とご相談ください。

参考情報

  • AAHA「2023 AAHA Senior Care Guidelines for Dogs and Cats」
  • AAHA「Palliative Care or Hospice?」
  • AAHA「How to Assess Your Senior Pet’s Quality of Life」

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