犬のレプトスピラ症|大雨後の水たまり・泥からの感染と症状を獣医師が解説

「大雨のあと、犬が水たまりの中を歩いてしまった」

「泥だらけになったけれど、水を飲んでいなければ大丈夫?」

「台風のあとから元気や食欲がない。散歩と関係ある?」

大雨や台風のあとには、いつもの散歩道に水たまりやぬかるみができることがあります。

犬がそこを歩いても、

「水を飲んでいないから大丈夫」

と思うかもしれません。

ですが、大雨や水害のあとに注意したい感染症の一つに、

レプトスピラ症

があります。

レプトスピラ症は、感染している動物の尿などによって汚染された水や土・泥を介して感染することがあります。

そして感染経路は、

汚染された水を飲むことだけではありません。

傷ついた皮膚や、目・口・鼻などの粘膜から身体へ侵入する可能性もあります。

今回は、

  • レプトスピラ症とは
  • なぜ大雨・台風のあとに注意するのか
  • 水たまりを飲まなくても感染する可能性がある理由
  • どんな場所を避けた方がよいのか
  • 水たまりや泥に触れてしまった後にできること
  • 感染してから症状が出るまで
  • 自宅で確認したい症状
  • 腎臓・肝臓に起こること
  • 動物病院で行う検査
  • 診察時に伝えてほしい「行動歴」
  • ワクチンについて
  • 人にも感染する病気であること
  • すぐ受診した方がよい症状

について、獣医師の立場からお伝えします。

  1. レプトスピラ症とは?
  2. なぜ大雨や台風のあとに注意するの?
  3. 「水たまりの水を飲まなければ大丈夫」ではありません
  4. どの水たまりが危険か、見た目では分かりません
  5. 川や池だけが感染場所ではありません
  6. 泥や水たまりに入ってしまったらどうすればいい?
  7. 帰宅後すぐ元気なら感染していない?
  8. レプトスピラ症ではどんな症状が出る?
  9. 特に重要なのが腎臓への影響です
  10. 肝臓へ影響する場合もあります
  11. 呼吸器症状がみられる場合もあります
  12. 「ただの胃腸炎かな?」と見えることがあります
  13. 診察の時は「大雨のあとの行動」を伝えてください
  14. いつ、どこへ行ったかを覚えておくと役立ちます
  15. 動物病院ではどんな検査をする?
  16. ワクチンについて知っておきたいこと
  17. 「室内犬だからワクチンは必要ない」とは一概に言えません
  18. 大雨前にワクチンを打てばすぐ守られる?
  19. ワクチンを打っていても、症状があれば受診してください
  20. レプトスピラ症は人にも感染する可能性があります
  21. 飼い主さん自身が体調を崩した場合は医療機関へ
  22. 大雨のあとに散歩を完全にやめる必要はありません
  23. 散歩コースを少し変えるだけでも構いません
  24. 雨が止んだからすぐ安全、とは限りません
  25. こんな症状があれば早めに受診してください
  26. 「水たまりを歩いた」という情報も診療情報です
  27. 大雨・台風後は「散歩後の数日」も見てあげてください
    1. 参考情報

レプトスピラ症とは?

レプトスピラ症は、Leptospira(レプトスピラ)属の細菌によって起こる感染症です。

犬だけの病気ではありません。

さまざまな哺乳類が感染する可能性があり、人にも感染する人獣共通感染症です。

感染している野生動物やネズミなどが尿中へレプトスピラを排出すると、

水。

土。

泥。

などの環境が汚染されることがあります。

犬は、こうした環境へ接触することで感染する場合があります。

なぜ大雨や台風のあとに注意するの?

レプトスピラは、湿った環境で生存しやすい細菌です。

大雨や洪水が起こると、

普段は離れている場所にある動物の尿。

土壌にあった汚染物。

などが雨水や洪水によって広い範囲へ移動する可能性があります。

そのため、

普段は問題なく歩いていた散歩道でも、

大雨のあとには環境がいつもと違っている

ことがあります。

特に、

冠水した道路。

泥が多く残っている場所。

流れの少ない水たまり。

河川や用水路の周辺。

野生動物やネズミがいる可能性のある場所。

などでは注意してください。

「水たまりの水を飲まなければ大丈夫」ではありません

レプトスピラ症でぜひ知っておいていただきたいのが、この点です。

犬が感染する経路は、

汚染された水を飲むことだけではありません。

レプトスピラは、

傷のある皮膚。

擦り傷。

目。

口。

鼻などの粘膜。

から身体へ侵入する可能性があります。

つまり、

水たまりの中を歩いた。

泥の中を走った。

身体に傷がある状態で汚染された水へ入った。

という場合にも感染する可能性があります。

もちろん、水たまりを一度歩いた犬が必ず感染するわけではありません。

ですが、

「飲んでいない=感染の可能性はゼロ」

とは考えない方がよいでしょう。

どの水たまりが危険か、見た目では分かりません

透明だから安全。

きれいに見えるから大丈夫。

という判断もできません。

レプトスピラに汚染されているかどうかを、水の見た目だけで確認することはできないからです。

そのため大雨のあとには、

できるだけ水たまりやぬかるみへ入らせない

という予防が現実的です。

いつもの散歩コースに大きな水たまりができている場合には、可能であれば別の道を選んでください。

川や池だけが感染場所ではありません

レプトスピラ症というと、

川遊び。

キャンプ。

山。

池。

など自然が多い場所だけの病気だと思う方もいます。

ですが、感染源になり得る動物は野生動物だけではありません。

都市部にもネズミなどは生息しています。

そのため、

「都会で暮らしている犬だから関係ない」

とも言い切れません。

犬種や大きさだけで、

「この子はレプトスピラ症にはならない」

と判断することもできません。

泥や水たまりに入ってしまったらどうすればいい?

散歩中に、

「あっ、水たまりに入ってしまった」

ということはあると思います。

その時点で、

「感染してしまった」

と慌てる必要はありません。

まずは安全な場所へ移動し、帰宅後に泥などが付着している場合には、清潔な水で洗い流すなど衛生的に対応してください。

足や身体に、

傷。

擦り傷。

皮膚炎。

などがないか確認しておくのもよいでしょう。

ただし、

洗ったから感染を完全に防げる

という意味ではありません。

大量の冠水水へ入った。

汚染が強く疑われる環境へ入った。

傷のある状態で長時間泥水へ接触した。

など、曝露について心配がある場合には、かかりつけの獣医師へ相談してください。

帰宅後すぐ元気なら感染していない?

これも注意が必要です。

レプトスピラへ感染しても、その場ですぐ症状が出るとは限りません。

感染してから症状が現れるまでには時間があります。

レプトスピラ症では、感染後およそ4~20日程度の潜伏期間があるとされています。

そのため、

「水たまりを歩いた当日は元気だった」

という理由だけで感染の可能性を完全に否定することはできません。

大雨後に汚染が疑われる場所へ入った場合には、その後しばらく、

食欲。

元気。

嘔吐。

尿。

身体の動き。

などを確認してみてください。

レプトスピラ症ではどんな症状が出る?

犬のレプトスピラ症では、症状の程度に大きな差があります。

軽い症状だけの場合もあれば、重い臓器障害を起こす場合もあります。

たとえば、

  • 元気がなくなる
  • 食欲が低下する
  • 嘔吐
  • 発熱
  • 脱水
  • お腹や腰周辺を痛がる
  • 身体を動かしたがらない
  • 筋肉の痛みや震え
  • 尿量が増える
  • 反対に尿量が減る
  • ほとんど尿が出なくなる
  • 黄疸
  • 呼吸の異常

などがみられる場合があります。

これらはレプトスピラ症だけにみられる症状ではありません。

だからこそ、

症状と、それ以前の行動歴を組み合わせること

が重要です。

特に重要なのが腎臓への影響です

犬のレプトスピラ症では、**急性腎障害(AKI)**が重要な病態の一つです。

腎臓が障害されると、

BUN。

クレアチニン。

リン。

などの検査値が上昇する場合があります。

尿の状態にも変化が起こります。

犬によっては、

尿量が増える。

水をたくさん飲む。

ということもあります。

反対に重症例では、

尿量が極端に減る。

尿が出なくなる。

こともあります。

急性腎障害から回復しても、その後慢性腎臓病へ移行する場合があります。

肝臓へ影響する場合もあります

レプトスピラ症では腎臓だけでなく、肝臓が障害されることもあります。

その場合、

白目が黄色く見える。

歯ぐきが黄色い。

皮膚が黄色っぽく見える。

といった黄疸がみられることがあります。

血液検査でも、

肝酵素。

ビリルビン。

などに異常がみられる場合があります。

腎臓と肝臓の両方に問題が起こる犬もいます。

呼吸器症状がみられる場合もあります

レプトスピラ症は、

「腎臓と肝臓の病気」

というイメージを持たれることが多いのですが、肺などへ影響する場合もあります。

一部の犬では、

咳。

呼吸が速くなる。

呼吸困難。

などがみられることがあります。

そのため、

大雨後の散歩のあとに体調を崩し、

さらに呼吸がおかしい場合には、早めに動物病院へ相談してください。

「ただの胃腸炎かな?」と見えることがあります

レプトスピラ症の初期には、

食欲がない。

元気がない。

吐いた。

といった、とても一般的な症状から始まる場合があります。

これだけを見ると、

「胃腸炎かな?」

と思うこともあるでしょう。

獣医師側でも、

症状だけを見れば多くの病気が候補になります。

そこで診断の大きな手がかりになるのが、

「症状が出る前に何があったか」

です。

診察の時は「大雨のあとの行動」を伝えてください

もし犬が体調を崩す前に、

大雨があった。

冠水した道路を歩いた。

水たまりへ入った。

泥の中を歩いた。

川や池へ入った。

ということがあれば、獣医師へ伝えてください。

たとえ、

「病気とは関係ないかもしれない」

と思っても構いません。

たとえば、

「1週間前の大雨のあと、水たまりの多い道を散歩しました」

という情報です。

この一言が、診断を考える重要な手がかりになることがあります。

いつ、どこへ行ったかを覚えておくと役立ちます

できれば、

いつ。

どこで。

どのくらいの時間。

どのような場所へ入ったのか。

を伝えてください。

たとえば、

5日前に大雨後の公園で泥の中を歩いた

10日前に川遊びをした

といった程度で構いません。

また、

水を飲んだ可能性。

傷の有無。

一緒に行った犬がいるか。

なども分かれば伝えてください。

動物病院ではどんな検査をする?

レプトスピラ症を疑う場合には、

身体検査。

血液検査。

尿検査。

などを行います。

さらに、レプトスピラそのものを調べるために、

PCR検査

や、

抗体検査

などを組み合わせる場合があります。

どの検査を行うかは、

症状が始まってからの期間。

抗菌薬をすでに使用しているか。

ワクチン歴。

などによっても変わります。

一つの検査結果だけでなく、症状・血液検査・尿検査・感染機会などを合わせて診断します。

ワクチンについて知っておきたいこと

犬では、レプトスピラ症を予防するためのワクチンがあります。

ただし、

ワクチンを接種すれば感染リスクが完全にゼロになる

というものではありません。

レプトスピラには複数の血清型があり、地域などによって関与するタイプも異なります。

また、使用されるワクチン製剤や接種計画も犬によって異なります。

そのため、

散歩環境。

住んでいる地域。

川やキャンプへ行くか。

野生動物との接触機会。

これまでのワクチン歴。

などをもとに、かかりつけの獣医師と相談してください。

「室内犬だからワクチンは必要ない」とは一概に言えません

犬が普段ほとんど室内で生活していても、散歩へ出れば水や土へ接触します。

都市部でもネズミなどの野生動物と環境を共有する可能性があります。

そのため、

「山へ行かない」

「大型犬ではない」

「ほとんど室内にいる」

という理由だけで、レプトスピラへの曝露リスクが必ずなくなるわけではありません。

ワクチンについては、生活環境を獣医師へ伝えたうえで検討してください。

大雨前にワクチンを打てばすぐ守られる?

ワクチンは、接種した直後から即座に十分な予防効果が得られるわけではありません。

特に初めてレプトスピラワクチンを接種する場合などには、複数回の初回接種が必要になる製剤があります。

「明日台風だから今日接種すれば大丈夫」

と考えるのではなく、

普段の予防計画として事前に相談しておく

ことが大切です。

ワクチンを打っていても、症状があれば受診してください

ワクチン接種歴がある犬でも、

大雨後の曝露。

食欲低下。

嘔吐。

元気消失。

尿の異常。

黄疸。

などがある場合には、

「ワクチンを打っているからレプトスピラではない」

と自己判断しないでください。

診察時にはワクチン歴も伝えてください。

レプトスピラ症は人にも感染する可能性があります

レプトスピラ症は人獣共通感染症です。

感染している犬では、尿中にレプトスピラが排出される可能性があります。

そのため、犬がレプトスピラ症と診断された、または強く疑われている場合には、

犬の尿を素手で触らない。

傷のある手で尿処理をしない。

必要に応じて手袋を使用する。

排泄物を処理した後は手をよく洗う。

といった対策が必要です。

具体的な家庭内での管理方法については、診断した獣医師の指示に従ってください。

飼い主さん自身が体調を崩した場合は医療機関へ

犬がレプトスピラ症と診断され、その犬の尿などへ接触したあと、

飼い主さん自身に、

発熱。

頭痛。

筋肉痛。

吐き気。

など体調変化がある場合には、人の医療機関へ相談してください。

その際、

「飼っている犬がレプトスピラ症と診断された(または疑われている)」

という情報を医師へ伝えてください。

大雨のあとに散歩を完全にやめる必要はありません

レプトスピラ症について知ると、

「雨のあとは散歩へ行かない方がいいの?」

と心配になるかもしれません。

ですが、

大雨のあとだからといって、外へ出た犬が必ず感染するわけではありません。

必要以上に怖がるより、

冠水した場所を避ける。

深い水たまりを避ける。

泥の多い場所へ入らせない。

水たまりの水を飲ませない。

というように、

避けられる曝露を減らすこと

が大切です。

散歩コースを少し変えるだけでも構いません

いつもの道が冠水していたら別の道へ。

公園が泥だらけなら、その日は舗装された道へ。

川が増水していたら近づかない。

この程度の工夫でも構いません。

大切なのは、

「絶対に感染させない散歩」を目指すのではなく、リスクの高い環境を知って避けること

です。

雨が止んだからすぐ安全、とは限りません

大雨が止まり、晴れた翌日でも、水たまりや泥が残っていることがあります。

レプトスピラは湿った環境で一定期間生存することがあります。

そのため、

「雨が止んだからもう大丈夫」

と決めるのではなく、足元の環境を見て散歩コースを選んでください。

こんな症状があれば早めに受診してください

大雨・水害後に水や泥へ接触した犬で、

  • 元気がない
  • 食欲がない
  • 何度も吐く
  • 発熱が疑われる
  • 水を飲む量が大きく変わった
  • 尿量が大きく変わった
  • 尿がほとんど出ない
  • 黄疸がみられる
  • 身体を痛がる
  • 震える
  • 呼吸が苦しそう

という症状があれば、早めに動物病院へ相談してください。

特に、

尿が出ない。

何度も吐いてぐったりしている。

呼吸が苦しそう。

意識や反応がおかしい。

といった場合には、早急な診療が必要になることがあります。

「水たまりを歩いた」という情報も診療情報です

飼い主さんは診察で、

食欲。

嘔吐。

下痢。

元気。

など症状を伝えると思います。

ですが、それと同じくらい、

体調を崩す前に何をしていたか

が大切になる病気があります。

レプトスピラ症もその一つです。

「大雨のあとに泥の中を歩いた」

という出来事は、一見すると病気と関係ないように思うかもしれません。

ですが獣医師にとっては、

診断候補を考える大切な情報

になることがあります。

大雨・台風後は「散歩後の数日」も見てあげてください

水たまりに入った瞬間だけ気をつければ終わりではありません。

その後、

食欲。

元気。

嘔吐。

尿。

身体の痛み。

黄疸。

呼吸。

などに変化がないか確認してください。

そして、

「何かおかしい」

と思った時には、

症状だけでなく、

「○日前、大雨のあとの水たまりや泥に入りました」

と獣医師へ伝えてください。

レプトスピラ症は、大雨のたびに必要以上に怖がるために知る病気ではありません。

どのような環境で感染する可能性があるのか。

どのような変化を見ればよいのか。

どんな時に受診すればよいのか。

それを知っておくことで、

避けられるリスクを減らし、必要な時に早く診療へつなげること

ができます。


※この記事は、犬のレプトスピラ症と大雨・台風後の散歩について一般的な情報をお伝えするものです。感染リスクや症状、必要な検査・ワクチンは犬の生活環境や地域などによって異なります。大雨や水害後に汚染が疑われる水・泥へ接触したあと体調変化がある場合には、動物病院へご相談ください。

参考情報

  • Merck Veterinary Manual「Leptospirosis in Dogs」
  • Merck Veterinary Manual「Leptospirosis in Animals – Overview」
  • CDC「About Leptospirosis」
  • CDC「Preventing Leptospirosis after Hurricanes or Flooding」
  • AAHA「Canine Vaccination Guidelines – Leptospirosis」
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