犬の乳腺腫瘍を見つけたら|良性・悪性、検査、手術、避妊手術の考え方を獣医師が解説

「犬の乳腺に小さなしこりを見つけた」

「まだ大豆くらいの大きさだけれど、様子を見ていていい?」

「避妊手術をしていないけれど、今から避妊する意味はある?」

犬のお腹を撫でている時に、乳首の近くへ小さなしこりを見つけることがあります。

しこりが小さく、犬自身も元気そうだと、

「このくらいなら、まだ様子を見てもいいのかな」

と思うかもしれません。

ですが、犬の乳腺腫瘍には良性と悪性があり、

見た目や触った感触だけで、良性・悪性を正確に判断することはできません。

また、

小さいから良性。

ゆっくり大きくなるから良性。

よく動くから大丈夫。

とも限りません。

今回は、

  • 犬の乳腺腫瘍とは
  • 良性と悪性の割合
  • 乳腺腫瘍を見つけた時に確認したいこと
  • 小さいしこりでも診察を受けた方がよい理由
  • 細胞診で分かること・分からないこと
  • 病理検査とは
  • 手術前に行うことがある検査
  • 乳腺腫瘍の手術
  • 未避妊犬で避妊手術を行う意味
  • 発情後の避妊と乳腺腫瘍のリスク
  • 猫の乳腺腫瘍との違い
  • 自宅で乳腺を確認する方法

について、獣医師の立場からお伝えします。

  1. 犬の乳腺腫瘍とは?
  2. 犬の乳腺腫瘍は約半数が悪性です
  3. 良性なら放っておいても大丈夫?
  4. 「コロコロ動くから良性」とは限りません
  5. 小さい乳腺腫瘍でも一度診察を受けましょう
  6. 「急に大きくなった」は大切な変化です
  7. 乳腺腫瘍は複数できることがあります
  8. 細胞診とは?
  9. 乳腺腫瘍では細胞診だけで良性・悪性を決められないことがあります
  10. 最終的な診断では病理組織検査が重要です
  11. 手術前には「広がっていないか」を確認することがあります
  12. 乳腺腫瘍の手術では、どこまで切除するの?
  13. 「小さいうちの手術」には意味があります
  14. 未避妊犬では乳腺腫瘍が多くみられます
  15. 「初回発情前に避妊すれば乳腺腫瘍にならない」とまでは言えません
  16. 発情を何度も経験した犬では、今から避妊しても意味がない?
  17. 乳腺腫瘍がある犬で避妊手術を行う理由は?
  18. すでにできている乳腺腫瘍は、避妊すれば消える?
  19. 猫の乳腺腫瘍は犬とは少し違います
  20. 自宅で乳腺を確認する習慣をつけてみてください
  21. しこりを見つけたら大きさを記録しておきましょう
  22. 「様子見」と言われた時に確認してほしいこと
  23. 乳腺腫瘍について手術を迷う場合には別の意見を聞く方法もあります
  24. 乳腺のしこりは「小さいから大丈夫」と決めつけないでください
    1. 参考情報

犬の乳腺腫瘍とは?

犬の乳腺腫瘍は、乳腺を構成する組織から発生する腫瘍です。

犬には一般的に、お腹の左右に複数の乳腺があります。

乳腺腫瘍は、

乳首の近くに小さなしこりがある。

乳腺の中に硬いものを触れる。

複数の場所にしこりがある。

という形で見つかることがあります。

中には数ミリ程度の非常に小さな段階で見つかるものもあります。

犬の乳腺腫瘍は約半数が悪性です

犬の乳腺腫瘍には、

良性腫瘍

悪性腫瘍

があります。

一般的には、犬の乳腺腫瘍のおよそ半数が良性、半数が悪性とされています。

ただし、

「50%だから、半分の確率で大丈夫」

と考えるのはおすすめできません。

目の前のしこりがどちらなのかは、その割合だけでは判断できないからです。

悪性腫瘍の場合には、

周囲の組織へ入り込む。

リンパ節へ広がる。

肺など離れた臓器へ転移する。

といったことがあります。

良性なら放っておいても大丈夫?

良性腫瘍であれば、悪性腫瘍のように周囲へ浸潤したり転移したりする性質は基本的にはありません。

ですが、

大きくなって皮膚が擦れる。

歩く時に邪魔になる。

表面が傷つく。

出血する。

という問題が起こる場合があります。

さらに、乳腺のしこりは触っただけで良性と確定できるわけではありません。

そのため、

「良性っぽいから様子見」

と自己判断することは避けてください。

「コロコロ動くから良性」とは限りません

一般的な腫瘍の説明では、

良性腫瘍はゆっくり大きくなり、境界が比較的はっきりしている。

悪性腫瘍は急速に大きくなり、周囲へ入り込むことがある。

と説明されることがあります。

確かに、そのような傾向がみられる腫瘍はあります。

ですが、

実際の乳腺腫瘍を触った感触だけで良性・悪性を区別することはできません。

よく動くしこりでも悪性のことがあります。

反対に、硬く感じても良性の場合があります。

見た目や触り心地は、診断の一部分にすぎません。

小さい乳腺腫瘍でも一度診察を受けましょう

乳腺腫瘍は、大きさも重要な情報です。

犬では乳腺腫瘍の病期を考える時に、腫瘍の大きさが評価項目のひとつになります。

さらに、大きくなるほど悪性である可能性が高くなる傾向も報告されています。

そのため、

「まだ大豆くらいだから、大きくなるまで待とう」

という考え方が必ずしも適切とは限りません。

小さいうちに見つかったからこそ、一度獣医師に確認してもらうことをおすすめします。

「急に大きくなった」は大切な変化です

以前から小さなしこりがあったものの、

数か月ほとんど変化がなかった。

それが最近になって急に大きくなった。

という場合があります。

このような変化は、必ず獣医師へ伝えてください。

また、

  • 急に大きくなった
  • 硬くなった
  • 表面が赤くなった
  • 出血した
  • 皮膚が破れた
  • 周囲へくっついて動きにくくなった

といった変化があれば、早めの診察をおすすめします。

乳腺腫瘍は複数できることがあります

犬では、一つだけではなく複数の乳腺に腫瘍ができることがあります。

そのため、

「一個しこりを見つけた」

という場合でも、診察では左右すべての乳腺を確認します。

ご自宅でも、

胸に近い乳腺。

お腹の中央。

後ろ足に近い乳腺。

まで、左右をゆっくり触ってみてください。

ただし、強くつまんだり何度も揉んだりする必要はありません。

細胞診とは?

乳腺にしこりを見つけた時、

細胞診

という検査を行うことがあります。

細胞診では、細い針をしこりへ刺して細胞を採取し、その細胞を顕微鏡で確認します。

身体への負担が比較的小さい検査です。

細胞診によって、

乳腺由来の病変なのか。

ほかの種類の腫瘍ではないか。

炎症性の病変ではないか。

などを考えるための情報が得られることがあります。

乳腺腫瘍では細胞診だけで良性・悪性を決められないことがあります

ここはとても大切です。

犬の乳腺腫瘍では、

細胞診だけでは良性・悪性を正確に区別できない場合があります。

乳腺腫瘍には、一つのしこりの中に異なる組織が混在していることがあります。

針で採取できるのは、その中のごく一部分です。

そのため、

「細胞診で悪性細胞が出なかったから、絶対に良性」

とは言えない場合があります。

細胞診は無意味な検査ということではありません。

ほかの腫瘍との区別など、治療方針を考えるための情報として役立つことがあります。

最終的な診断では病理組織検査が重要です

乳腺腫瘍の良性・悪性や種類を詳しく調べるために重要なのが、

病理組織検査

です。

手術などで切除した腫瘍組織を検査し、

どの種類の腫瘍なのか。

良性か悪性か。

悪性度はどうか。

血管やリンパ管へ入り込んでいないか。

切除した端まで腫瘍細胞が及んでいないか。

などを評価します。

乳腺腫瘍では、

「切除して終わり」ではなく、切除した組織を病理検査へ提出すること

が非常に重要です。

手術前には「広がっていないか」を確認することがあります

悪性乳腺腫瘍では、リンパ節や肺などへ転移する場合があります。

そのため、手術前には犬の状態に合わせて、

  • 身体検査
  • 血液検査
  • 尿検査
  • 胸部レントゲン
  • リンパ節の確認
  • 必要に応じた細胞診
  • 状態によってその他の画像検査

などを行うことがあります。

これを**ステージング(病期評価)**と呼びます。

単に、

「しこりを取れるか」

だけではなく、

病気が身体のどこまで広がっている可能性があるか

を確認し、治療方針を考えます。

乳腺腫瘍の手術では、どこまで切除するの?

乳腺腫瘍の手術には複数の方法があります。

腫瘍だけを切除する。

腫瘍がある乳腺を切除する。

周囲の乳腺も含めて切除する。

複数の乳腺をまとめて切除する。

などです。

どの範囲を切除するかは、

腫瘍の場所。

数。

大きさ。

リンパ節との関係。

身体の状態。

などによって変わります。

「乳腺腫瘍なら必ず全部の乳腺を取る」

というわけではありません。

一頭ずつ手術方法を検討します。

「小さいうちの手術」には意味があります

乳腺腫瘍は、大きくなる前に治療できることが重要です。

腫瘍が小さい方が、

手術範囲を小さくできる場合がある。

皮膚を閉じやすい場合がある。

腫瘍が破れる前に治療できる。

病期がより早い段階で治療できる可能性がある。

といったメリットがあります。

ただし、

小さければ絶対に悪性ではない。

小さければ転移していない。

という意味ではありません。

大きさだけでなく、病理結果や病期を合わせて考えます。

未避妊犬では乳腺腫瘍が多くみられます

犬の乳腺腫瘍は、卵巣から分泌される女性ホルモンとの関連が知られています。

そのため、

避妊していない雌犬。

比較的遅い時期に避妊手術を受けた雌犬。

では、乳腺腫瘍が多くみられます。

早い時期に避妊手術を行うことで、乳腺腫瘍の発生リスクを低下させることが知られています。

「初回発情前に避妊すれば乳腺腫瘍にならない」とまでは言えません

以前は、

「初回発情前に避妊すれば、乳腺腫瘍はほぼゼロ」

という説明がよくされていました。

現在でも、初回発情前の避妊では乳腺腫瘍の発生が非常に少ないことは知られています。

ですが、

絶対に乳腺腫瘍にならない

という意味ではありません。

また、避妊手術を行う時期は、

乳腺腫瘍だけを見て決めればよいものでもありません。

犬種。

体格。

関節疾患。

その他の腫瘍。

尿失禁などのリスク。

繁殖予定。

生活環境。

なども含めて考える必要があります。

そのため、現在は、

すべての犬に同じ月齢で避妊する

のではなく、その子に合わせて獣医師と相談するという考え方も重要になっています。

発情を何度も経験した犬では、今から避妊しても意味がない?

ここは、元の記事から現在の情報に合わせて考え方を少し変えたい部分です。

以前は、

「3回以上発情を経験すると、それ以降に避妊しても乳腺腫瘍予防の効果はない」

と説明されることがありました。

ですが現在では、

発情を何度も経験した成犬であっても、避妊手術が全く意味を持たないと一律には言えません。

すでに乳腺腫瘍がある犬で、腫瘍切除と同時に避妊手術を行った群では、その後の新しい乳腺腫瘍の発生が少なかったという報告もあります。

ただし、すべての犬で同じ利益が得られるわけではありません。

年齢。

腫瘍の種類。

全身状態。

麻酔リスク。

その他の病気。

などを合わせて判断します。

乳腺腫瘍がある犬で避妊手術を行う理由は?

乳腺腫瘍がある未避妊犬では、腫瘍手術と同時に避妊手術を提案される場合があります。

考えられる理由には、

今後新たな乳腺腫瘍が発生するリスクを減らせる可能性

があります。

さらに、卵巣・子宮を摘出する手術であれば、

子宮蓄膿症を予防できる

という大きなメリットがあります。

子宮蓄膿症は、特に中高齢の未避妊犬で起こることがあり、重症化すると命に関わる病気です。

一方、避妊手術を追加すれば手術時間や身体への負担が変わる場合があります。

そのため、

「乳腺腫瘍があるなら必ず避妊もする」

というものではありません。

担当の獣医師とメリット・負担を比較してください。

すでにできている乳腺腫瘍は、避妊すれば消える?

基本的には、

避妊手術をしただけで、すでにできている乳腺腫瘍がなくなるわけではありません。

乳腺腫瘍そのものについては、腫瘍の状態を確認して治療方法を考える必要があります。

「避妊すれば、このしこりも治る」

と考えて放置しないでください。

猫の乳腺腫瘍は犬とは少し違います

猫にも乳腺腫瘍があります。

ただし、犬とは性質が異なります。

猫では、乳腺腫瘍の80~90%程度が悪性とされています。

そのため、猫の乳腺にしこりを見つけた場合には、

「小さいから様子を見る」

ではなく、早めに動物病院へ相談することをおすすめします。

猫でも、若い時期の避妊手術によって乳腺腫瘍のリスクが大きく低下することが知られています。

自宅で乳腺を確認する習慣をつけてみてください

特に未避妊の雌犬や、避妊時期が遅かった犬では、

普段から乳腺を触っておくことをおすすめします。

難しいことをする必要はありません。

撫でる時に、

左右の乳首周辺をそっと触る。

今までなかったしこりがないか見る。

以前からあるものが大きくなっていないか確認する。

程度で構いません。

定期的に触っていると、

「前はなかった」

という変化に気づきやすくなります。

しこりを見つけたら大きさを記録しておきましょう

乳腺にしこりを見つけた場合には、

場所。

大きさ。

見つけた日。

を記録しておくと役立ちます。

たとえば、

9月6日 右後ろから2番目の乳腺 約8mm

という程度です。

定規と一緒に写真を撮っておく方法もあります。

ただし、

記録しながら大きくなるまで待つことが目的ではありません。

まず一度獣医師へ相談し、その後の観察方法について指示を受けてください。

「様子見」と言われた時に確認してほしいこと

乳腺のしこりについて、

「今は様子を見ましょう」

と言われることもあります。

その場合には、

何を理由に様子を見るのか。

どのくらいの期間を見るのか。

大きさがどのくらい変わったら再診するのか。

細胞診や手術を行わない理由は何か。

を確認してみてください。

「様子を見る」こと自体が悪いわけではありません。

大切なのは、

次に何を見て、いつ再評価するのかが決まっていること

です。

乳腺腫瘍について手術を迷う場合には別の意見を聞く方法もあります

乳腺腫瘍について、

すぐ手術した方がいいと言われた。

反対に様子見と言われた。

高齢なので麻酔が心配。

どこまで乳腺を切除するのか迷っている。

という場合には、別の獣医師へ相談するセカンドオピニオンという方法があります。

その場合には、

これまでの検査結果。

しこりの大きさの変化。

細胞診を行っていればその結果。

血液検査。

画像検査。

現在のお薬。

などを準備してください。

乳腺のしこりは「小さいから大丈夫」と決めつけないでください

犬の乳腺腫瘍では、約半数が悪性です。

一方で、約半数は良性です。

つまり、

乳腺にしこりを見つけたからといって、

「がんだ」

と決めつける必要もありません。

ですが、

「小さいから大丈夫」

と決めつけることもできません。

見つけた時に一度診察を受ける。

必要な検査を相談する。

経過観察なら再診の目安を決める。

手術する場合には病理検査を行う。

未避妊であれば避妊手術についても相談する。

という流れで考えてください。

早い段階で見つけられた小さなしこりは、

「まだ小さいから何もしなくていいもの」ではなく、「小さいうちにどうするか考えられるもの」

だと思っています。


※この記事は、犬の乳腺腫瘍・避妊手術について一般的な情報をお伝えするものです。しこりの良性・悪性、必要な検査、手術方法、避妊手術の適切な時期は犬の年齢・犬種・身体の状態・腫瘍の性質などによって異なります。乳腺に新しいしこりを見つけた場合には、動物病院へご相談ください。

参考情報

  • Merck Veterinary Manual「Mammary Tumors in Dogs」
  • American College of Veterinary Surgeons「Mammary Tumors」
  • Merck Veterinary Manual「Mammary Tumors in Cats」
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