台風や大雨が過ぎて、ようやく雨が上がった日。
「何日かお散歩に行けなかったから、今日はたくさん歩かせてあげよう」
そう思う飼い主さんも多いのではないでしょうか。
ですが、大雨のあとのお散歩では、いつもより少し注意してほしいことがあります。
そのひとつが、**犬の「レプトスピラ症」**です。
レプトスピラ症は、犬だけではなく人にも感染する可能性がある「人獣共通感染症」です。
特に大雨や洪水のあとには、汚染された水や泥に触れる機会が増えるため、注意が必要になります。
今回は獣医師の立場から、
- レプトスピラ症とはどのような病気なのか
- 犬はどのように感染するのか
- どのような症状がみられるのか
- 台風や大雨のあとに注意したい場所
- 飼い主さんができる予防
- 動物病院へ相談したい症状
について、分かりやすくお伝えします。
犬のレプトスピラ症とは?
レプトスピラ症は、レプトスピラ属の細菌によって起こる感染症です。
犬だけでなく、人やさまざまな哺乳動物にも感染することがあります。
レプトスピラ菌を保有しているネズミなどの野生動物や感染した動物では、尿と一緒に菌が排出されることがあります。
その尿によって汚染された、
水たまり、川、池、泥、湿った土などに犬が触れることで感染する可能性があります。
「汚れた水を飲まなければ大丈夫」
と思われるかもしれませんが、飲むことだけが感染経路ではありません。
口・鼻・目などの粘膜や、傷のある皮膚などから菌が体内へ侵入することがあります。
そのため、水たまりの中を歩くことや、汚れた泥や水に触れることにも注意が必要です。
なぜ台風や大雨のあとに注意が必要なの?
大雨が降ったあとは、普段とは周囲の環境が変わります。
川の水があふれたり、地面に水がたまったりすることで、野生動物などの尿で汚染された水や土壌に接触する機会が増える可能性があります。
実際に、人のレプトスピラ症でも、台風や大雨による汚染水への曝露が原因と考えられる水系感染事例が報告されています。
そのため、雨が止んだからといって、すぐに普段と同じ環境に戻っているとは限りません。
特に雨量が多かった日や道路が冠水したあとは、お散歩コースを少し慎重に選んであげてください。
大雨のあとに避けたい場所
台風や大雨のあとのお散歩では、次のような場所にはできるだけ近づかないようにしましょう。
水たまり
道路や公園に残った水たまりは、どこから流れてきた水なのか分かりません。
犬が水を飲んだり、中を歩いたりしないよう注意してください。
ぬかるんだ場所
泥や湿った土にも注意が必要です。
特に野生動物が多い場所では、できるだけ避けた方がよいでしょう。
川や池などの水辺
川や池の水を飲ませたり、大雨の直後に水辺で遊ばせたりすることは控えましょう。
草むら
ネズミなどの野生動物が出入りする場所では、尿などで環境が汚染されている可能性があります。
雨上がりは特に地面も湿っているため、いつも以上に注意してあげてください。
レプトスピラ症に感染するとどんな症状が出る?
レプトスピラ症の症状は犬によって異なり、初期にはほかの病気と区別しにくいこともあります。
たとえば、
「なんとなく元気がない」
「ごはんを食べなくなった」
という変化から始まる場合もあります。
ほかにも、
・発熱
・食欲低下
・元気がなくなる
・嘔吐
・下痢
・腹部を痛がる
・飲水量や尿量の変化
などがみられることがあります。
さらに病気が進行すると、腎臓や肝臓に重い障害を起こすことがあります。
黄疸によって白目や皮膚、歯ぐきなどが黄色っぽく見えたり、尿の色や量に異常がみられたりする場合もあります。
重症化することもある病気だからこそ、早めに異変に気づくことが大切です。
こんな症状があれば早めに動物病院へ
大雨のあとに水たまりや川、ぬかるみなどに入ったあと、
急に元気がなくなった、食欲がない、何度も吐く、尿の量がおかしい、体や白目が黄色っぽいなどの変化がみられた場合は、早めに動物病院へ相談してください。
受診するときには、
「数日前に大雨のあとの水たまりに入った」
「川で遊んだ」
「泥の多い場所を散歩した」
など、思い当たることがあれば獣医師に伝えてください。
一見するとレプトスピラ症とは関係なさそうに思える情報でも、診断を考えるうえで大切な手がかりになることがあります。
また、
「この症状がないからレプトスピラ症ではない」
と症状だけで判断することはできません。
気になる変化がある場合には、自己判断で様子を見続けず、かかりつけの動物病院へ相談しましょう。
お散歩から帰ったら確認してほしいこと
大雨のあとのお散歩から帰ったら、犬の足先やお腹、被毛などを確認してあげてください。
泥や汚れた水が付いていた場合には、そのままにせずきれいにしてあげましょう。
そして、日頃から
「いつもの食欲」
「いつもの元気」
「いつものおしっこの回数や量」
を知っておくことも大切です。
普段の状態を知っているからこそ、
「今日はいつもと少し違う」
という小さな変化に気づくことができます。
レプトスピラ症はワクチンで予防できる?
犬のレプトスピラ症には、ワクチンによる予防方法もあります。
ただし、すべての犬に同じワクチンが必要というわけではありません。
住んでいる地域や生活環境、
川や山へよく出かけるか、
野生動物と接触する可能性があるかなどによっても、感染リスクは異なります。
また、犬の混合ワクチンにはいくつか種類があり、含まれている感染症も同じではありません。
「うちの子が受けているワクチンには、レプトスピラ症も入っているのかな?」
と分からない場合には、ワクチンの証明書を確認するか、かかりつけの獣医師に聞いてみてください。
愛犬の生活環境を伝えたうえで、必要な予防について相談することをおすすめします。
レプトスピラ症は人にも感染する病気です
レプトスピラ症は犬だけの病気ではなく、人にも感染する可能性がある人獣共通感染症です。
感染した動物の尿や、それによって汚染された水・土壌などが感染源になることがあります。
もし愛犬がレプトスピラ症と診断された、または感染が疑われている場合には、尿の処理方法や家庭での注意点について動物病院の指示を受けてください。
飼い主さん自身も、犬の尿を素手で触らないなど、適切な衛生管理を行うことが大切です。
大雨のあとも、必要以上に怖がる必要はありません
ここまで読むと、
「雨が降ったあとは散歩に行かない方がいいの?」
と不安になってしまう方もいらっしゃるかもしれません。
ですが、必要以上に怖がる必要はありません。
大切なのは、どこにリスクがあるのかを知って、避けられるものは避けることです。
いつもの散歩道でも、
水たまりには入らせない。
ぬかるみを避ける。
川や池の水を飲ませない。
野生動物が多い場所には近づかない。
お散歩のあとは、足や体を確認する。
こうした小さな心がけが、愛犬を守ることにつながります。
犬たちは、自分で感染症のリスクを判断することはできません。
だからこそ、私たち飼い主が少しだけ知識を持っておくことが大切です。
台風や大雨のあとに愛犬とお散歩へ出かけるとき、
「今日は水たまりやぬかるみに気をつけよう」
と思い出していただけたらと思います。
大切なわが子と安心して毎日を過ごすために。
正しく知り、避けられるリスクから守ってあげましょう。
獣医師
かわの わいちろう
※この記事は犬のレプトスピラ症について一般的な情報をお伝えするものです。症状や感染状況は個々の犬によって異なります。体調に異変がある場合や感染が心配な場合は、かかりつけの動物病院へご相談ください。
