犬猫が皮下点滴後に水を飲まない時|飲水量が減る理由と注意したい症状を獣医師が解説

「皮下点滴を始めてから、水を飲む量が減った」

「点滴をした日は、ほとんど水を飲まない」

「水を飲まなくなったということは、点滴の量が多すぎるの?」

慢性腎臓病などの犬や猫では、自宅で**皮下点滴(皮下補液)**を行うことがあります。

皮下点滴を始めたあとに、

「以前より水を飲まなくなった」

と気づく飼い主さんは少なくありません。

皮下点滴では、皮膚の下へ入れた水分が少しずつ身体へ吸収されます。

そのため、点滴によって必要な水分の一部が補われることで、以前より自分から水を飲む量が減ることはあります。

ですが、

水を飲まなくなった=必ず問題ない

とも、

水を飲まなくなった=点滴が多すぎる

とも限りません。

飲水量だけではなく、

尿量。

食欲。

元気。

体重。

嘔吐。

呼吸。

身体のむくみ。

などを一緒に見ることが大切です。

今回は、

  • 皮下点滴後に水を飲まなくなる理由
  • 飲水量が減っても問題ない場合
  • 水を飲まない時に確認したいこと
  • 慢性腎臓病と多飲多尿
  • 皮下点滴と脱水の関係
  • 点滴後の「ぷっくりした膨らみ」について
  • 皮下点滴は多いほどよいのか
  • 水分の与えすぎで起こること
  • 心臓病がある犬猫の注意点
  • 自宅で記録しておきたいこと
  • 獣医師へ相談した方がよい症状

について、獣医師の立場からお伝えします。

  1. 皮下点滴をすると水を飲む量が減ることがあります
  2. 「水を飲まない=脱水」とは限りません
  3. 慢性腎臓病では「水をよく飲む」ことがあります
  4. 皮下点滴を始めると「喉の渇き」が減る場合があります
  5. ただし「点滴しているから水を飲まなくても大丈夫」とは限りません
  6. 食欲も一緒に確認してください
  7. 嘔吐していないか確認してください
  8. 尿量を見ることがとても大切です
  9. 皮下点滴後に尿が増えることがあります
  10. 皮下点滴後にできる「ぷっくりした膨らみ」は?
  11. 点滴後の膨らみが残っていたら、次の点滴をしていい?
  12. 皮下点滴は「多ければ多いほどよい」治療ではありません
  13. 「腎臓の数値を下げるため」に点滴量を増やすものではありません
  14. 水分が多すぎると「水分過剰」になることがあります
  15. 点滴後に「呼吸が速い」は注意したい変化です
  16. 心臓病がある犬猫では特に慎重な水分管理が必要です
  17. 呼吸数を普段から知っておくと役立ちます
  18. むくみや体重変化も確認することがあります
  19. 水を飲む量を無理に制限しないでください
  20. 水を飲みやすい環境を作ることも大切です
  21. ウェットフードを食べると飲水量が減ることがあります
  22. 「今日は水を飲まない」だけではなく変化の組み合わせを見てください
  23. 自宅で簡単な記録をつけておくと役立ちます
  24. 水の量を正確に測れなくても構いません
  25. 点滴量や回数を自己判断で増減しないでください
  26. 「皮下点滴を嫌がるようになった」時も相談してください
  27. 皮下点滴と静脈点滴は同じものではありません
  28. こんな症状があれば早めに獣医師へ相談してください
  29. 皮下点滴後に水を飲まない時は「水だけ」を見ないでください
    1. 参考情報

皮下点滴をすると水を飲む量が減ることがあります

皮下点滴では、皮膚と筋肉の間にある皮下組織へ補液を入れます。

皮膚の下へ入った水分は、その後少しずつ身体へ吸収されます。

つまり犬猫にとっては、

口から水を飲む以外の方法で水分を補給している

ことになります。

そのため、それまで脱水傾向があり多く水を飲んでいた子では、皮下点滴によって身体の水分状態が改善し、自分から飲む水の量が減る場合があります。

これは必ずしも異常というわけではありません。

「水を飲まない=脱水」とは限りません

水を飲む量が減ると、

「脱水してしまうのでは?」

と心配になると思います。

ですが、身体へ入る水分は飲み水だけではありません。

犬猫は、

飲み水。

食事に含まれる水分。

皮下点滴。

などから水分をとっています。

たとえばウェットフードには多くの水分が含まれています。

そのため、

飲水量だけを見て、身体に入っている水分量を判断することはできません。

特に皮下点滴を行っている犬猫では、点滴から入った水分も考える必要があります。

慢性腎臓病では「水をよく飲む」ことがあります

慢性腎臓病の犬猫では、腎臓の尿を濃縮する能力が低下することがあります。

すると尿として多くの水分を失いやすくなり、

尿量が増える。

↓

身体から水分が失われる。

↓

喉が渇く。

↓

水をたくさん飲む。

という状態になることがあります。

これが、慢性腎臓病でよくみられる多飲多尿です。

皮下点滴を始めると「喉の渇き」が減る場合があります

脱水傾向だった犬猫に適切な皮下点滴を行うことで、水分状態が改善すれば、

以前ほど強く喉が渇かない。

ということがあります。

その結果、

「前は何度も水皿へ行っていたのに、今日はあまり行かない」

という変化がみられる場合があります。

その子が、

元気。

食欲もある。

尿もいつも通り出ている。

呼吸も普段通り。

という状態であれば、単純に必要な水分の一部が点滴から補われた結果である可能性があります。

ただし「点滴しているから水を飲まなくても大丈夫」とは限りません

ここはとても重要です。

皮下点滴をしていても、

水を飲まない。

さらに食事も食べない。

元気がない。

吐いている。

尿量が減った。

という場合には、単純に点滴で水分が足りているだけではない可能性があります。

たとえば、

吐き気。

痛み。

口の中のトラブル。

病気の進行。

全身状態の悪化。

などによって、水を飲めなくなっていることもあります。

そのため、

飲水量が減った理由を「点滴したから」で決めつけないこと

が大切です。

食欲も一緒に確認してください

水を飲まなくなった時に確認していただきたいのが食欲です。

皮下点滴後も、

いつも通り食事を食べる。

ウェットフードを食べている。

元気もある。

という場合と、

食事にも近づかない。

においを嗅ぐだけでやめる。

好きなものも食べない。

という場合では意味が違います。

特に慢性腎臓病では、

吐き気。

胃腸の不快感。

脱水。

その他の合併症。

によって食欲が低下することがあります。

「水を飲まない」だけではなく、食べられているかも見てください。

嘔吐していないか確認してください

犬猫が水を飲まなくなる理由の一つに吐き気があります。

実際に吐いていなくても、

口をペロペロする。

食べ物のにおいを嗅いで離れる。

よだれが増える。

落ち着かない。

といった変化がみられる場合があります。

慢性腎臓病の犬猫でも吐き気が問題になることがあります。

水を飲まない状態に、

嘔吐。

食欲低下。

元気消失。

が加わっている場合には、獣医師へ相談してください。

尿量を見ることがとても大切です

皮下点滴を行っている犬猫では、

飲水量だけではなく尿量も確認してください。

たとえば猫なら、

猫砂の尿の塊が普段と同じくらいあるか。

急に小さくなっていないか。

まったく見当たらないことはないか。

を確認します。

犬の場合には、

排尿回数。

一回の尿量。

排尿姿勢。

などを見てください。

特に、

尿がほとんど出ない。

何度も排尿姿勢をとるのに出ない。

という場合には、腎臓病とは別に尿路閉塞など緊急性の高い病気が隠れている可能性があります。

皮下点滴後に尿が増えることがあります

皮下点滴によって身体へ水分が入れば、その一部は腎臓から尿として排泄されます。

そのため、

点滴後に尿量が増えた。

ということがあります。

特に慢性腎臓病ではもともと尿量が多い子もいます。

「たくさん尿が出るから点滴が全部無駄」

というわけではありません。

大切なのは、

その子が脱水せず、身体の水分バランスを保てているか

ということです。

皮下点滴後にできる「ぷっくりした膨らみ」は?

皮下点滴を行ったあと、

背中や肩周辺に、

ぷっくりとした水の入ったような膨らみ

ができます。

初めて見ると、

「腫れてしまった」

と驚くかもしれません。

ですが、これは皮下へ入れた補液が一時的にたまっている状態です。

通常は時間とともに身体へ吸収されていきます。

重力によって、点滴を入れた場所から少し下側へ移動して見えることもあります。

点滴後の膨らみが残っていたら、次の点滴をしていい?

皮下へ入れた補液がまだ十分吸収されていない状態で、

「時間だから」

という理由だけで次の点滴を追加することが適切とは限りません。

吸収の速さは、

身体の状態。

循環。

脱水の程度。

点滴量。

などによって変わる場合があります。

いつもより明らかに吸収が遅い。

膨らみが長く残っている。

身体の様子も違う。

という場合には、次の点滴を自己判断で追加する前に、獣医師へ相談してください。

皮下点滴は「多ければ多いほどよい」治療ではありません

慢性腎臓病では、

「腎臓が悪いなら水分をたくさん入れた方がいい」

と思うかもしれません。

ですが、点滴も治療として適切な量を使用するものです。

必要量は、

犬猫の体重。

脱水の程度。

腎臓の状態。

尿量。

食事量。

飲水量。

心臓の状態。

その他の病気。

によって変わります。

全員に同じ量を入れればよいわけではありません。

「腎臓の数値を下げるため」に点滴量を増やすものではありません

BUNやクレアチニンが高いと、

「もっと点滴すれば数値が下がるのでは?」

と思うことがあります。

ですが、

血液検査の数字を下げることだけを目的に、必要以上の水分を入れることは適切ではありません。

脱水がある場合には水分を補う必要があります。

一方で、すでに十分な水分状態の犬猫へ過剰に補液すると、身体に負担がかかる可能性があります。

大切なのは数字だけではなく、その子の水分状態や病気全体を評価することです。

水分が多すぎると「水分過剰」になることがあります

犬猫が排泄できる量より多く水分が身体へ入ると、余分な水分が体内にたまる場合があります。

これを**水分過剰・体液過剰(fluid overload)**と呼ぶことがあります。

特に注意が必要なのは、

腎臓の働きが大きく低下している。

尿量が少ない。

心臓病がある。

といった犬猫です。

余分な水分を十分に排泄できなければ、身体の組織や胸・肺などへ水分がたまる可能性があります。

点滴後に「呼吸が速い」は注意したい変化です

皮下点滴をしている犬猫で特に確認していただきたいのが、呼吸です。

たとえば、

以前より安静時の呼吸が速い。

胸やお腹を大きく使って呼吸する。

横になれない。

落ち着かない。

咳が出る。

という変化です。

これらには心臓病・呼吸器疾患など複数の原因があります。

ですが、皮下点滴の量や頻度を変更したあとにこのような変化が起きた場合には、点滴との関係も含めて獣医師へ伝えてください。

心臓病がある犬猫では特に慎重な水分管理が必要です

慢性腎臓病と心臓病の両方を持っている犬猫もいます。

腎臓だけを考えれば水分補給が必要でも、

心臓にとっては多すぎる水分が負担になる場合があります。

このような犬猫では、

腎臓と心臓、両方の状態を見ながら点滴量を決めること

が非常に重要です。

「腎臓が悪いから毎日この量」

という固定した考え方ではなく、身体の状態によって調整します。

呼吸数を普段から知っておくと役立ちます

慢性腎臓病で皮下点滴をしている犬猫、特に心臓病もある場合には、

普段の安静時・睡眠時の呼吸を知っておくと役立ちます。

ぐっすり眠っている時に、

胸が上がって下がる一往復を一回

として数えます。

獣医師からその子に合った目安を教えてもらい、普段より明らかな増加が続いていないか確認してください。

数字だけで自己診断せず、

いつもとの違いを見ること

が大切です。

むくみや体重変化も確認することがあります

体内へ過剰な水分がたまると、

手足や身体がむくむ。

急に体重が増える。

身体が腫れぼったく見える。

といった変化がみられることがあります。

自宅で毎日体重を測れる犬猫であれば、定期的に記録しておくと診療の参考になります。

ただし、体重変化には食事や排泄など多くの要因があります。

体重だけで水分過剰と判断することはできません。

水を飲む量を無理に制限しないでください

皮下点滴を行っているからといって、

「点滴で水分を入れているから、水は飲ませなくていい」

ということではありません。

基本的には、いつでも自由に新鮮な水を飲める環境を用意してください。

犬猫が自分から水を飲む場合には、獣医師から特別な指示がない限り、その飲水を自己判断で制限しないようにしてください。

水を飲みやすい環境を作ることも大切です

慢性腎臓病の犬猫では、十分な水分をとれる環境を整えることが大切です。

たとえば猫では、

複数の場所に水皿を置く。

新鮮な水へこまめに交換する。

器の形や素材を変えてみる。

流れる水を好む場合には給水器を試す。

ウェットフードを利用する。

といった方法があります。

猫によって水の好みは異なります。

無理に飲ませるのではなく、

飲みやすい選択肢を増やす

という考え方がおすすめです。

ウェットフードを食べると飲水量が減ることがあります

ドライフードと比べ、ウェットフードには多くの水分が含まれます。

そのため、ウェットフードを多く食べている犬猫では、水皿から飲む量が少なく見える場合があります。

これも、

飲水量だけでは総水分摂取量を判断できない理由

の一つです。

ただし、慢性腎臓病では療法食など食事内容そのものも大切です。

食事を変更する場合には獣医師へ相談してください。

「今日は水を飲まない」だけではなく変化の組み合わせを見てください

皮下点滴後の飲水量が少ない時には、

水を飲まない。

という一項目だけを見るのではなく、

食欲。

元気。

尿量。

嘔吐。

便。

呼吸。

体重。

を一緒に確認してください。

たとえば、

飲水量は減ったけれど、食欲・元気・尿量は普段通り

という場合と、

飲水量が減り、食べず、吐いて、ぐったりしている

場合では緊急性が異なります。

自宅で簡単な記録をつけておくと役立ちます

皮下点滴を自宅で続ける場合には、簡単な記録がおすすめです。

たとえば、

9月30日

点滴:実施
食欲:○
飲水:少なめ
尿:いつも通り
嘔吐:なし
元気:○

という程度で構いません。

さらに獣医師から指示されている場合には、

体重。

呼吸数。

点滴量。

なども記録します。

毎日の数字を細かく管理することが目的ではありません。

「いつから変わったのか」が分かるようにすること

が大切です。

水の量を正確に測れなくても構いません

飲水量について、

「何mL飲んだか測らないといけない?」

と思うかもしれません。

もちろん正確に測れる場合には役立ちます。

ですが、多頭飼育や複数の水皿がある場合には難しいことがあります。

その場合には、

以前より水皿へ行く回数が減った。

水の減り方が違う。

給水器を使わなくなった。

という程度の情報でも構いません。

飼い主さんが感じる、

「いつもと違う」

は大切な診療情報です。

点滴量や回数を自己判断で増減しないでください

水を飲まなくなったから、

点滴を減らそう。

反対に、

脱水が心配だから点滴を増やそう。

という自己判断は避けてください。

皮下点滴は、その時の、

腎臓の状態。

心臓の状態。

水分状態。

尿量。

食事。

飲水。

検査結果。

などをもとに処方されています。

気になる変化がある場合には、その情報を獣医師へ伝えたうえで量や回数を相談してください。

「皮下点滴を嫌がるようになった」時も相談してください

長期間自宅で皮下点滴を続けていると、

以前より嫌がる。

逃げる。

点滴中に落ち着かない。

という変化が出ることがあります。

単純に処置そのものが苦手になった場合もありますが、

針を刺す場所が痛い。

皮膚に問題がある。

体調そのものが悪い。

ということもあります。

毎回強く抵抗するようになった場合には、点滴方法や必要性について獣医師へ相談してください。

皮下点滴と静脈点滴は同じものではありません

皮下点滴は、皮下へ入れた水分を時間をかけて吸収する方法です。

比較的状態が安定している犬猫の水分補給に利用されることがあります。

一方、

重度の脱水。

循環不全。

急激な体調悪化。

などでは、皮下点滴では十分ではない場合があります。

このような状態では、動物病院で静脈点滴が必要になることがあります。

「自宅で皮下点滴をしているから病院へ行かなくて大丈夫」

とは限りません。

こんな症状があれば早めに獣医師へ相談してください

皮下点滴後に飲水量が減っただけでなく、

  • 食欲が大きく低下した
  • 何度も吐く
  • ぐったりしている
  • 尿量が明らかに減った
  • 尿がまったく出ない
  • 呼吸が以前より速い
  • 呼吸が苦しそう
  • 咳が出始めた
  • 身体にむくみがある
  • 点滴後の皮下の膨らみがいつもと明らかに違う
  • 急に体重が増えた
  • 意識や反応がおかしい

という場合には、獣医師へ相談してください。

特に、

呼吸困難。

尿が出ない。

強いぐったり。

意識の異常。

などがある場合には、早めの診療が必要です。

皮下点滴後に水を飲まない時は「水だけ」を見ないでください

皮下点滴をしたあとに水を飲む量が減ることはあります。

それ自体がすぐ異常とは限りません。

ですが、

「点滴をしたから水を飲まなくて当然」

とも限りません。

大切なのは、

その子全体を見ること

です。

食欲はあるか。

元気はあるか。

尿は出ているか。

嘔吐はないか。

呼吸は普段通りか。

点滴後の様子はいつもと同じか。

そして、

以前と比べて何が変わったのか。

皮下点滴は、

決められた量を機械的に入れ続ける治療ではありません。

身体の状態が変われば、必要な水分量も変わる場合があります。

だからこそ、

「最近、水を飲まなくなった」

という小さな気づきも、獣医師に伝えてください。

毎日一緒にいる飼い主さんだから分かる変化が、その子に合った点滴量や治療を見直す大切な情報になります。


※この記事は、犬猫の皮下点滴・飲水量・慢性腎臓病などについて一般的な情報をお伝えするものです。必要な点滴量・頻度は、体重・腎機能・心臓病・尿量・脱水状態などによって異なります。自己判断で皮下点滴の量や回数を変更せず、飲水量や体調に変化がある場合には担当の獣医師へご相談ください。

参考情報

  • AAHA「2024 AAHA Fluid Therapy Guidelines for Dogs and Cats」
  • AAHA「Fluids for Replacement and Maintenance」
  • AAHA「Fluid Overload」
  • Cornell University College of Veterinary Medicine「Chronic Kidney Disease」
  • Cornell University College of Veterinary Medicine「Hydration」
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