「家の中をずっと歩き回るようになった」
「同じところを何度も行ったり来たりしている」
「家具の隙間に入って、出られなくなることが増えた」
「夜中も歩き続けていて心配」
高齢の犬と暮らしていると、これまでには見られなかった徘徊するような行動が現れることがあります。
年齢とともに認知機能が低下すると、
目的が分からないまま歩き続ける。
同じ場所を何度も行き来する。
家具や壁の前で立ち止まる。
狭い場所へ入り込み、自分では戻れなくなる。
といった行動がみられることがあります。
ですが、
「高齢犬が歩き回る=認知症」
とは限りません。
痛みや不安、身体の病気、排泄したい、神経の病気など、別の原因によって落ち着かず歩いている場合もあります。
今回は、
- 高齢犬が徘徊するように見える原因
- 認知機能低下との関係
- 「歩き回る」以外に確認したいこと
- 家具の隙間で動けなくなる時の対策
- 滑りや転倒を防ぐ環境づくり
- 徘徊を無理に止めなくてもよい場合
- 行動を記録する方法
- 急にぐるぐる回るようになった時の注意
- 通院が難しい時の往診
について、獣医師の立場からお伝えします。
- 高齢犬の徘徊ではどんな行動がみられる?
- 「認知症だから徘徊している」と決めつけないことが大切です
- 痛みがあって落ち着けない場合もあります
- 排尿や排便が理由で歩いていることもあります
- 認知機能不全では「見当識」の変化がみられることがあります
- 徘徊している犬を無理に止めなくてもよい場合があります
- 家具の隙間や「行き止まり」を減らしましょう
- 滑りにくい床にして転倒を防ぎましょう
- 階段や危険な場所へ入らないようにしましょう
- 水・寝床・トイレへ行きやすくしましょう
- 夜中の徘徊では小さな照明が役立つ場合があります
- 歩いている様子を動画に残しておきましょう
- 「いつ・どのくらい歩くか」も記録してみてください
- 「同じ方向にぐるぐる回る」場合は注意が必要です
- 急な徘徊や行動変化は「歳だから」で済ませないでください
- 徘徊が続くと、ご家族にも負担がかかることがあります
- 通院が大きな負担になっている時には往診という方法があります
- 往診でも必要に応じて病院での検査をご提案します
- 高齢犬の徘徊では「止める」より「原因と安全」を考えてください
- 福岡市で高齢犬の徘徊について往診をご検討の方へ
高齢犬の徘徊ではどんな行動がみられる?
「徘徊」といっても、行動は犬によってさまざまです。
たとえば、
- 家の中を長時間歩き続ける
- 同じ場所を何度も往復する
- 部屋の中をぐるぐる歩く
- 家具と壁の隙間へ入り込む
- 隅に入ると自分では出られなくなる
- 壁の前で立ち止まる
- ドアとは違う場所で外へ出ようとする
- 夜中に起きて歩き続ける
といった変化があります。
認知機能が低下している犬では、**自分が今どこにいるのか、どちらへ進めばよいのか分かりにくくなる「見当識の変化」**がみられることがあります。
その結果として、目的なく歩いているように見えたり、行き止まりから戻れなくなったりすることがあります。
ただし、こうした行動だけで認知機能不全と判断することはできません。
「認知症だから徘徊している」と決めつけないことが大切です
高齢犬が歩き回るようになった時には、
「認知症が始まったのかな?」
と思うかもしれません。
認知機能不全は、高齢犬の徘徊や落ち着きのなさを考える原因のひとつです。
一方で、
- 身体が痛い
- 横になるとつらい
- 排尿・排便したい
- 喉が渇いている
- 不安がある
- 呼吸が苦しい
- 視力や聴力が低下している
- 内科的な病気がある
- 神経系の病気がある
といった理由で歩き回る場合もあります。
大切なのは、
「歩いている」という行動だけではなく、その前後にどのような変化があるのかを見ることです。
痛みがあって落ち着けない場合もあります
高齢犬では、関節炎など慢性的な痛みを抱えていることがあります。
身体が痛く、同じ姿勢で横になることがつらいと、
横になる。
すぐ起きる。
少し歩く。
また横になる。
ということを繰り返す場合があります。
飼い主さんから見ると、
「ずっとウロウロしている」
ように見えることがあります。
ほかにも、
- 立ち上がる時につらそう
- 階段を嫌がる
- 車へ乗らなくなった
- 散歩の距離が短くなった
- 寝る場所を何度も変える
- 身体を触ると嫌がる
- 夜になるとハアハアする
などの変化があれば、痛みについても確認する必要があります。
排尿や排便が理由で歩いていることもあります
高齢犬では、排泄の習慣が変化することもあります。
歩き回っている犬を外やトイレへ連れて行くと排尿し、その後落ち着くのであれば、排泄したくて歩いていた可能性もあります。
特に、
- 水を飲む量が増えた
- 尿の回数が増えた
- 夜中にも排尿するようになった
- 尿が漏れるようになった
- 何度も排尿姿勢をとる
- 排尿しづらそう
などがあれば、獣医師へ伝えてください。
「認知症で夜中に徘徊している」と思っていたものが、身体の病気によって排泄回数が増えた結果だった、ということも考えられます。
認知機能不全では「見当識」の変化がみられることがあります
犬の認知機能不全では、
今いる場所が分からなくなる。
慣れた家の中で迷う。
ドアの場所が分からなくなる。
家具の隙間へ入ったまま戻れない。
といった見当識の変化がみられることがあります。
たとえば、
家具と壁の間へ頭から入り、そのまま後ろへ下がれない。
部屋の角に立ったまま動けない。
ドアの開く側とは反対側で待っている。
といった様子です。
このような変化が、
夜鳴き。
昼夜逆転。
排泄の失敗。
家族との関わり方の変化。
不安の増加。
などと一緒にみられる場合には、認知機能についても獣医師へ相談してみてください。
徘徊している犬を無理に止めなくてもよい場合があります
犬が歩き続けていると、
「休ませた方がいいのでは?」
「徘徊を止めなければ」
と思うかもしれません。
ですが、歩くこと自体を無理に止める必要がない場合もあります。
自分で歩くことができ、呼吸も安定していて、強い痛みや疲労がなく、安全な場所を歩いているのであれば、
歩く行動そのものを止めるより、安全に歩ける環境を整える
という考え方もあります。
一方で、
歩き続けて疲れている。
転倒を繰り返す。
足を引きずっている。
呼吸が苦しそう。
痛そう。
という場合には、そのまま歩かせ続けず獣医師へ相談してください。
家具の隙間や「行き止まり」を減らしましょう
認知機能が低下している犬では、
前へ進むことはできても、後ろへ下がったり方向転換したりすることが難しくなる
場合があります。
そのため、
家具と壁の狭い隙間。
机や椅子の間。
部屋の角。
行き止まりになる場所。
などへ入り込み、出られなくなることがあります。
そのような場所があれば、
- 家具と壁の隙間を塞ぐ
- 犬が入り込めないようにする
- 行き止まりになる場所を減らす
- 歩くスペースから物を減らす
などの工夫をしてみてください。
家具を頻繁に大きく動かすよりも、今ある環境をできるだけ分かりやすく、安全にすることを考えます。
滑りにくい床にして転倒を防ぎましょう
高齢犬では、認知機能だけでなく足腰も弱っていることがあります。
フローリングなど滑りやすい床では、
後ろ足が滑る。
方向転換で転ぶ。
起き上がれなくなる。
といったことがあります。
歩く場所には、
- 滑りにくいマット
- カーペット
- 滑り止めになる敷物
などを利用する方法があります。
特に、
寝床から水飲み場。
寝床からトイレ。
普段よく歩く場所。
など、毎日使う動線から整えていくとよいでしょう。
階段や危険な場所へ入らないようにしましょう
徘徊する高齢犬では、以前なら避けられていた危険を判断しにくくなることがあります。
特に注意したいのが、
- 階段
- 玄関の段差
- ベランダ
- 浴室
- 水のある場所
- 落下する可能性のある場所
などです。
必要に応じてゲートを設置するなど、犬が一人で危険な場所へ入らない環境を作りましょう。
視力が低下している犬では、段差が分かりにくくなっていることもあります。
「今まで落ちなかったから大丈夫」ではなく、現在の身体・認知機能に合わせて環境を見直すことが大切です。
水・寝床・トイレへ行きやすくしましょう
高齢犬では、
認知機能低下。
足腰の衰え。
視力の低下。
などが重なっている場合があります。
そのため、
水を飲みに行きたいけれど場所が分からない。
トイレまで遠い。
寝床へ戻れない。
ということが起こる場合があります。
水飲み場や寝床、排泄場所は、
できるだけ分かりやすく、移動しやすい場所
にしてあげましょう。
家が広い場合には、水飲み場を増やすことを検討する場合もあります。
ただし、生活環境を急に大きく変えると戸惑う子もいるため、その子の反応を見ながら少しずつ調整してください。
夜中の徘徊では小さな照明が役立つ場合があります
高齢犬では、視力が低下していることがあります。
昼間は問題なく歩けても、暗くなると周囲が分かりにくくなり、不安や徘徊が強くなる場合があります。
そのような子では、
廊下。
寝床の周辺。
水飲み場。
トイレまでの動線。
などに、小さな照明を使用することで移動しやすくなる場合があります。
ただし、すべての犬で照明が必要というわけではありません。
その子の様子を見ながら調整してください。
歩いている様子を動画に残しておきましょう
高齢犬の徘徊について相談する時には、動画がとても役立つことがあります。
たとえば、
家の中をどう歩いているのか。
同じ方向へ回っているのか。
行ったり来たりしているのか。
壁の前で止まるのか。
家具にぶつかるのか。
足を引きずっていないか。
ふらついていないか。
などです。
動物病院では緊張して、普段とはまったく違う歩き方になる犬もいます。
そのため、安全に撮影できる場合には、自宅での普段の様子を短い動画に残しておくと診察の参考になります。
「いつ・どのくらい歩くか」も記録してみてください
動画と一緒に、
- 徘徊が始まる時間
- 何分くらい続くか
- 昼と夜のどちらが多いか
- 排泄後に落ち着くか
- 食事の前後で変化するか
- 家族がそばにいると落ち着くか
- 夜鳴きも一緒にあるか
などを記録しておくと役立ちます。
たとえば、
23時:寝床から起きて20分歩く
1時:再び歩く。排尿後に眠る
という程度でも構いません。
毎日細かく記録する必要はありません。
何日かの傾向が分かることが大切です。
「同じ方向にぐるぐる回る」場合は注意が必要です
ここは特に覚えておいていただきたいところです。
認知機能が低下している犬でも歩き回ることはありますが、
急に同じ方向へぐるぐる回るようになった
場合には、認知機能不全以外の神経系の病気についても考える必要があります。
特に、
- いつも同じ方向へ回る
- 頭が傾いている
- ふらついている
- まっすぐ歩けない
- 急に壁へぶつかるようになった
- 意識や反応がおかしい
- けいれんがある
といった変化が一緒にある場合には、早めに獣医師へ相談してください。
以前から少しずつ歩き回るようになった場合と、昨日までなかった行動が突然始まった場合では、考え方が異なります。
急な徘徊や行動変化は「歳だから」で済ませないでください
認知機能不全では、行動が少しずつ変化していくことがあります。
一方で、
急に落ち着かなくなった。
突然歩き回り始めた。
急に立てなくなった。
突然ふらつくようになった。
という場合には、身体や神経系の病気などを確認する必要があります。
また、
- 呼吸が苦しそう
- 強い痛みがある
- 食事や水がとれない
- 繰り返し吐いている
- 尿が出ない
- けいれんが続いている
- 意識や反応がおかしい
などがある場合には、早めに獣医師へ相談してください。
「高齢だから」
「認知症だから」
だけで判断しないことが大切です。
徘徊が続くと、ご家族にも負担がかかることがあります
高齢犬が夜中も歩き続けていると、
家具にぶつからないか。
転ばないか。
階段へ行かないか。
どこかに挟まらないか。
と心配で、ご家族も眠れなくなることがあります。
毎晩何度も起きて見守る生活が続けば、介護するご家族にも大きな負担がかかります。
獣医師へ相談する際には、
「犬が徘徊しています」
だけではなく、
「夜も見守る必要があり、家族も眠れなくなっています」
ということも伝えてください。
犬の状態だけではなく、ご家族が続けられる介護方法を一緒に考えることも大切です。
通院が大きな負担になっている時には往診という方法があります
徘徊について獣医師へ相談したいけれど、
高齢で車に乗せることが難しい。
環境が変わると強く不安になる。
歩けるけれど通院後にとても疲れてしまう。
大型犬で家族だけでは移動が難しい。
という場合もあります。
そのような時には、獣医師がご自宅へ伺う往診が選択肢になることがあります。
往診では、
身体の状態だけではなく、
- 実際にどこを歩いているか
- 滑りやすい床はないか
- 狭い隙間へ入り込んでいないか
- 家具の配置
- 寝床
- 水飲み場
- 排泄場所
- 夜間の動線
など、その子が普段過ごしている環境を確認できます。
自宅で起きている問題を、実際の環境を見ながら考えられることは、往診の特徴のひとつです。
往診でも必要に応じて病院での検査をご提案します
歩き回る行動の背景に、
身体の病気。
痛み。
神経系の病気。
などが疑われる場合には、詳しい検査が必要になることがあります。
往診で行える検査には限りがあります。
そのため、
血液検査。
画像検査。
神経学的な詳しい評価。
などが必要と考えられる場合には、設備の整った動物病院での診療をご提案することがあります。
往診を利用する=病院へ行かなくてよい
ということではありません。
その子の状態に合わせて、往診と動物病院を使い分けていきます。
高齢犬の徘徊では「止める」より「原因と安全」を考えてください
高齢犬が家の中を歩き続けていると、
「どうしたら止められる?」
と考えてしまうかもしれません。
ですが、大切なのは徘徊という行動だけを止めることではありません。
なぜ歩いているのか。
痛みはないか。
身体の病気はないか。
認知機能が変化していないか。
安全に歩ける環境になっているか。
ご家族の負担は大きくなっていないか。
一つずつ確認していくことが大切です。
そして、認知機能の変化があったとしても、
滑りにくくする。
危険な場所を塞ぐ。
迷いやすい場所を減らす。
夜間の照明を考える。
水やトイレへ行きやすくする。
など、今のその子に合わせてできることがあります。
「歳だから仕方ない」と終わらせず、その子が少しでも安全に、安心して過ごせる方法を考えていただけたらと思います。
福岡市で高齢犬の徘徊について往診をご検討の方へ
福岡犬猫往診クリニックでは、福岡市を中心に高齢犬の往診を行っています。
「家の中をずっと歩き回るようになった」
「家具の隙間に入って出られなくなる」
「通院が難しく、自宅の環境も含めて相談したい」
という場合には、往診専用LINEからご相談いただけます。
▼往診についてのご相談はこちら
https://lin.ee/P5x6bjfZ
犬の状態によっては、往診ではなく設備の整った動物病院での検査・治療をご案内する場合があります。
福岡犬猫往診クリニック
獣医師 かわの わいちろう
※この記事は、高齢犬の徘徊・歩き回る行動について一般的な情報をお伝えするものです。徘徊のように見える行動は、認知機能不全だけではなく、痛み・身体疾患・神経疾患・不安などによって起こる場合があります。突然の行動変化や神経症状がみられた場合には、早めに獣医師へご相談ください。
参考情報
- AAHA「2023 AAHA Senior Care Guidelines for Dogs and Cats」
- AAHA「Lifestyle and Safety Assessment」
- Merck Veterinary Manual「The Neurologic Examination of Animals」
