犬猫を動物病院へ連れて行けない時|通院の工夫と往診という選択肢を獣医師が解説

「体調が悪そうだけれど、病院まで連れて行くことが難しい」

「高齢になって、車へ乗せるだけでも大変になった」

「猫がキャリーを見るだけで逃げてしまう」

犬や猫の具合が悪い時、

「動物病院へ連れて行かなければ」

と思う一方で、実際には通院そのものが難しいことがあります。

たとえば、

高齢になり歩くことが難しくなった。

寝たきりになった。

大型犬で家族だけでは持ち上げられない。

車に乗ると強く怖がる。

猫がキャリーケースへ入らない。

少し動くだけで疲れてしまう。

という犬猫側の事情があります。

また、

車がない。

飼い主さん自身が高齢。

小さなお子さんがいる。

一人では犬猫を運べない。

といった、ご家庭側の事情もあります。

そのような時、

「病院へ連れて行けないなら、もう何もできない」

と考える必要はありません。

通院方法を工夫する。

動物病院へ事前に相談する。

家族などに移動を手伝ってもらう。

場合によっては往診を利用する。

いくつかの方法があります。

今回は、

  • 犬猫を動物病院へ連れて行けなくなる理由
  • 高齢犬・高齢猫で通院が難しくなる原因
  • 猫がキャリーを怖がる時の考え方
  • 通院ストレスを減らすための工夫
  • 動物病院へ事前に相談しておきたいこと
  • 往診が選択肢になるケース
  • 往診だから分かること
  • 往診が必ずしも適しているとは限らない理由
  • 往診ではなく動物病院を優先するケース
  • 元気なうちに準備しておきたいこと

について、獣医師の立場からお伝えします。

  1. 「動物病院へ連れて行けない」理由はひとつではありません
  2. 高齢犬・高齢猫では通院そのものが負担になることがあります
  3. 「もう歳だから動かせない」と決めつけないことも大切です
  4. 猫では「キャリーからすでに通院ストレスが始まっている」ことがあります
  5. キャリーは「病院へ行く日にだけ出す物」にしない方法があります
  6. 通院前の不安が強い場合は、事前に動物病院へ相談してください
  7. 大型犬では「病院まで運ぶこと」が大きな問題になることがあります
  8. まず「かかりつけの動物病院へ相談する」という方法があります
  9. 通院できない時には「往診」という選択肢があります
  10. 往診では「その子の普段の生活」を見ることができます
  11. 動物病院では見られない様子が分かることもあります
  12. ただし「往診なら必ずストレスが少ない」とは限りません
  13. 往診ですべての検査や治療ができるわけではありません
  14. 「往診か病院か」の二択にしなくても構いません
  15. 緊急時には「往診を待つ」ことが適切ではない場合があります
  16. 呼吸が苦しそうな時は特に注意してください
  17. 元気なうちに「通院できなくなった時」を考えておきましょう
  18. 検査結果やお薬の情報をまとめておくと役立ちます
  19. 自宅での様子を動画に残す方法もあります
  20. 「病院へ連れて行けない=何もできない」ではありません
    1. 参考情報

「動物病院へ連れて行けない」理由はひとつではありません

通院が難しいというご相談でも、理由はそれぞれ違います。

大きく分けると、

犬猫自身の身体的な問題

犬猫の恐怖やストレス

移動手段の問題

ご家族の事情

などがあります。

原因によって、考えられる対策も変わります。

たとえば、

猫がキャリーを怖がっているのであれば、キャリーへの慣らし方を見直すことで通院しやすくなる場合があります。

一方、寝たきりの大型犬で家族だけでは動かせないのであれば、キャリー練習では解決できません。

大切なのは、

「病院へ行けない」という結果だけでなく、なぜ行けないのかを整理すること

です。

高齢犬・高齢猫では通院そのものが負担になることがあります

高齢になると、

筋力が低下する。

関節に痛みが出る。

視力や聴力が低下する。

認知機能が変化する。

持病が増える。

といったことがあります。

以前は自分で車へ乗れていた犬が、段差を上れなくなることもあります。

キャリーで問題なく通院していた猫が、身体の痛みから持ち上げられることを嫌がるようになる場合もあります。

また、

病院へ行ったあと長時間眠る。

帰宅後に食欲が落ちる。

翌日まで疲れている。

という変化がみられることもあります。

「まだ病院には行けるか」だけではなく、「通院による負担が以前より増えていないか」

も確認してみてください。

「もう歳だから動かせない」と決めつけないことも大切です

高齢犬・高齢猫が動かなくなった時、

「年齢のせいだろう」

と思うことがあります。

ですが、

関節炎などの痛み。

心臓や呼吸器の病気。

貧血。

神経系の病気。

その他の身体疾患。

によって動くことがつらくなっている場合もあります。

「高齢だから通院が難しくなった」

という背景に、治療できる病気や痛みが隠れている可能性もあります。

そのため、

急に歩けなくなった。

数週間で活動量が大きく低下した。

触ると痛がる。

呼吸が変わった。

といった場合には、年齢だけの問題と判断せず獣医師へ相談してください。

猫では「キャリーからすでに通院ストレスが始まっている」ことがあります

猫では、

キャリーケースを出しただけで隠れる。

キャリーへ入れようとすると暴れる。

車の中でずっと鳴く。

動物病院で固まってしまう。

ということがあります。

猫にとっては、

キャリーへ入る。

家の外へ出る。

車へ乗る。

知らない場所へ行く。

知らない人や動物のにおいを感じる。

という一連の流れそのものが大きなストレスになることがあります。

そのため、

「動物病院が嫌い」というより、病院へ到着するまでの体験を怖がっている

場合もあります。

キャリーは「病院へ行く日にだけ出す物」にしない方法があります

猫がキャリーを強く怖がる場合には、普段からキャリーを生活空間へ置いておく方法があります。

たとえば、

扉を開けた状態にしておく。

中に使い慣れた毛布を入れる。

猫が自分から入れるようにする。

安心できる場所として少しずつ慣らす。

といった方法です。

キャリーを見るたびに捕まえられて病院へ行く経験だけを繰り返すと、

「キャリー=怖いことが起こる」

と学習してしまう場合があります。

一方、普段から休む場所のひとつになっていれば、移動時の負担を減らせる可能性があります。

ただし、強く怖がっている猫を無理やり何度もキャリーへ押し込む練習はおすすめしません。

その子のペースで慣らしていきます。

通院前の不安が強い場合は、事前に動物病院へ相談してください

犬猫によっては、通院前から非常に強い不安がみられることがあります。

その場合、

「病院へ着いてから相談しよう」

ではなく、予約時に、

「通院をとても怖がります」

と伝えておくことをおすすめします。

動物病院によっては、

待合室を避ける方法。

車内など別の場所で待つ方法。

比較的静かな時間帯を案内する方法。

診察方法を工夫する。

必要に応じて通院前のお薬について相談する。

などを検討できる場合があります。

対応できる内容は動物病院によって異なります。

通院前に使用する薬についても、自己判断で人用薬や以前処方された薬を使わず、必ず獣医師の指示を受けてください。

大型犬では「病院まで運ぶこと」が大きな問題になることがあります

大型犬が自分で歩けなくなると、ご家族だけでは車へ乗せることが難しくなる場合があります。

特に、

立てない。

後ろ足に力が入らない。

寝たきりになった。

強い痛みがある。

という場合には、無理に抱き上げることで犬にもご家族にも負担がかかります。

移動方法について迷う場合には、無理に動かす前に動物病院へ連絡し、現在の状態を伝えてください。

犬の状態によっては、どのように移動させるかについて指示を受けられる場合があります。

また、元気なうちから、

一人で持ち上げられる大きさなのか。

移動を手伝える家族がいるか。

車までどのように運ぶか。

などを考えておくことも大切です。

まず「かかりつけの動物病院へ相談する」という方法があります

病院へ連れて行けないと、

「診察できないから連絡しても意味がないかな」

と思うかもしれません。

ですが、まずかかりつけの動物病院へ現在の状況を伝えてみてください。

たとえば、

「歩けなくなって車まで運べません」

「猫をキャリーへ入れることができません」

「病院へ行くと非常に強くパニックになります」

「一人では大型犬を動かせません」

と具体的に伝えます。

病院によっては、

通院方法を一緒に考える。

診察時間を調整する。

必要な準備を伝える。

往診を行う獣医師を案内する。

などの対応ができる場合があります。

通院できない時には「往診」という選択肢があります

通院そのものが大きな負担になっている場合には、獣医師が自宅へ伺う往診が選択肢になることがあります。

たとえば、

  • 高齢で歩くことが難しい
  • 寝たきりになっている
  • 大型犬で移動が難しい
  • 通院すると身体への負担が非常に大きい
  • キャリーや車への恐怖が非常に強い
  • 慢性疾患の経過を自宅で確認したい
  • 在宅介護について相談したい

といった場合です。

往診では、ご自宅で身体の状態を確認し、できる範囲で診察や治療を行います。

往診では「その子の普段の生活」を見ることができます

往診の特徴のひとつは、

犬猫が実際に生活している環境を確認できること

です。

たとえば、

普段どこで眠っているか。

水や食事まで自分で移動できるか。

トイレまでどのくらい距離があるか。

床が滑りやすくないか。

大きな段差がないか。

どのように介護しているか。

といったことです。

特に高齢犬・高齢猫では、身体の病気だけでなく生活環境が日々の過ごしやすさに影響します。

滑りやすい床へマットを敷く。

水飲み場を近づける。

トイレを利用しやすくする。

寝床を見直す。

といった環境調整について相談できることもあります。

動物病院では見られない様子が分かることもあります

犬猫の中には、動物病院へ行くと普段とは違う行動をする子がいます。

緊張して動かなくなる。

逆に興奮して普段より動く。

痛みを隠してしまう。

ということがあります。

往診では、

普段どのように立つのか。

どこを歩くのか。

寝床から自分で起きられるのか。

食事をどの姿勢で食べるのか。

など、自宅での状態を確認できる場合があります。

日常生活について相談したい高齢犬・高齢猫では、こうした情報が役立つことがあります。

ただし「往診なら必ずストレスが少ない」とは限りません

往診は慣れた自宅で診察を受けられるため、落ち着いて診察できる犬猫もいます。

一方で、

すべての犬猫にとって往診が一番ストレスの少ない方法とは限りません。

特に猫では、

知らない人が自分の生活空間へ入ってくること。

自宅で身体を触られること。

自分の安全な場所で処置を受けること。

を強く嫌がる子もいます。

つまり、

「病院か往診か」ではなく、その子の性格やこれまでの経験も含めて考えること

が大切です。

通院は嫌がるけれど病院では比較的診察しやすい子もいますし、自宅の方が落ち着いている子もいます。

一頭ずつ違います。

往診ですべての検査や治療ができるわけではありません

往診には、持ち運べる設備に限りがあります。

そのため、

  • 詳しい画像検査
  • CTやMRI
  • 麻酔を必要とする処置
  • 手術
  • 入院管理
  • 継続的な酸素投与
  • 高度な救急治療

などは、設備の整った動物病院でなければ難しいことがあります。

往診で診察した結果、

「これは病院で詳しく調べた方がよい」

と判断する場合もあります。

往診は、動物病院の代わりにすべての医療を自宅で行う方法ではありません。

「往診か病院か」の二択にしなくても構いません

通院が難しくなると、

「これから全部往診に切り替えなければ」

と思うかもしれません。

ですが、使い分ける方法もあります。

たとえば、

日常的な状態確認や在宅ケアの相談は往診。

レントゲンや詳しい検査が必要な時は動物病院。

定期的な専門診療はかかりつけ医。

という方法です。

身体の状態は変化します。

元気な時には病院へ通い、体調が悪い時や移動が難しい時には往診を利用することもあります。

大切なのは、

診療する場所を固定することではなく、その時に必要な医療を受けられる方法を選ぶこと

です。

緊急時には「往診を待つ」ことが適切ではない場合があります

病院へ連れて行くことが難しい子でも、症状によっては設備の整った動物病院で早急な治療が必要になります。

特に、

  • 呼吸が非常に苦しそう
  • 意識がない、反応がおかしい
  • けいれんが続いている
  • 大量に出血している
  • 交通事故など大きな外傷がある
  • 中毒や誤食が疑われる
  • 尿が出ない
  • 激しい嘔吐や下痢が続いている
  • 急激にぐったりした
  • 強い痛みがある

といった状態です。

このような場合には、

「動かすのが大変だから往診を待とう」

と自己判断せず、まず動物病院や救急病院へ連絡してください。

病院へ電話することで、安全な移動方法について指示を受けられる場合もあります。

呼吸が苦しそうな時は特に注意してください

呼吸の異常は、緊急性が高いことがあります。

たとえば、

安静にしているのに呼吸が明らかに速い。

胸やお腹を大きく動かして呼吸する。

首を伸ばして呼吸する。

横になることができない。

猫が口を開けて呼吸している。

歯ぐきや舌の色がおかしい。

といった場合です。

呼吸が苦しい犬猫を長時間待たせることは危険な場合があります。

往診を利用している子であっても、急変時には動物病院での救急診療が必要になることがあります。

元気なうちに「通院できなくなった時」を考えておきましょう

高齢犬・高齢猫と暮らしている場合には、今は元気でも、

「もし病院へ行けなくなったらどうする?」

を一度考えておくことをおすすめします。

たとえば、

かかりつけ医は往診に対応しているか。

地域に往診を行う獣医師がいるか。

大型犬を誰が運ぶか。

夜間に急変した時はどこへ行くか。

検査結果や薬の情報をどこに保管するか。

などです。

体調が急変してから初めて調べ始めるより、元気な時に準備しておく方が選択肢を整理しやすくなります。

検査結果やお薬の情報をまとめておくと役立ちます

往診や普段とは違う動物病院を利用することになった時には、これまでの診療情報が重要です。

可能であれば、

  • 現在の病名
  • 飲んでいる薬
  • 薬の量や回数
  • 最近の血液検査結果
  • 画像検査の結果
  • 手術歴
  • アレルギー
  • これまでの治療経過

などが分かるようにしておきましょう。

薬袋を保管したり、検査結果をスマートフォンで撮影したりする方法でも構いません。

自宅での様子を動画に残す方法もあります

病院へ連れて行くことが難しい子では、普段の状態を動画にしておくことも役立ちます。

たとえば、

  • 歩き方
  • 立ち上がる様子
  • 呼吸
  • 食事
  • 夜鳴き
  • 徘徊
  • 発作のような動き

などです。

動物病院へ相談する場合にも、往診を利用する場合にも、普段の様子を理解するための参考になります。

ただし、緊急性の高い症状では動画撮影を優先せず、早めに獣医師へ連絡してください。

「病院へ連れて行けない=何もできない」ではありません

犬や猫を動物病院へ連れて行くことが難しくなる理由は、家庭によって違います。

高齢だから。

大型犬だから。

猫が怖がるから。

車がないから。

飼い主さん一人では運べないから。

さまざまです。

大切なのは、

通院できないことだけで医療を諦めないことです。

通院方法を工夫できないか。

動物病院へ事前に相談できないか。

往診が合っている状態ではないか。

それとも病院での検査を優先すべき状態なのか。

一つずつ考えることができます。

診療の形はひとつではありません。

その子の身体の状態、性格、年齢、必要な医療、そしてご家庭の状況を合わせて、

今のその子にとって無理の少ない方法

を獣医師と一緒に考えていただけたらと思います。


※この記事は、犬猫を動物病院へ連れて行くことが難しい場合の対応や往診について一般的な情報をお伝えするものです。往診で対応できる診療内容は施設によって異なります。また、呼吸困難・意識障害・けいれん・大量出血・中毒・排尿不能など緊急性の高い状態では、設備の整った動物病院で速やかな診療が必要になる場合があります。

参考情報

  • AAHA「2023 AAHA Senior Care Guidelines for Dogs and Cats」
  • AAHA「How to Reduce Cat Stress at the Vet」
  • AAHA「Helping Your Cat Cope with Veterinary Visits」
  • Feline Veterinary Medical Association「2025 Transportation of Cats in Motor Vehicles Position Statement」
  • Merck Veterinary Manual「Evaluation and Initial Treatment of Dog and Cat Emergencies」
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