「寝返りをさせたいけれど、痛くないか心配」
「抱き上げる時に嫌がるようになった」
「声をかけても反応が少なくなってきた」
犬や猫の介護が始まると、今まで何気なくしていたことにも迷うようになることがあります。
身体に触れる。
抱き上げる。
寝返りをする。
身体を拭く。
寝床を移動する。
ひとつひとつの動作について、
「この触り方で大丈夫かな?」
と思うこともあるでしょう。
高齢になった犬猫や病気のある子では、
身体に痛みがある。
筋力が低下している。
視力や聴力が低下している。
認知機能が変化している。
以前より不安を感じやすくなっている。
といったことがあります。
そのため、若い頃と同じように接すると、びっくりしたり、嫌がったりする場合があります。
今回は、
- 介護中の犬猫に触れる時に大切なこと
- 声をかけてから触れる理由
- 視力・聴力が低下している場合
- 触られることを嫌がる時に考えたい痛み
- 犬猫が見せる「嫌だよ」のサイン
- 抱き上げる時の注意点
- 寝返りや体位変換について
- 寝床と床ずれの予防
- 身体を触る時に確認したい変化
- 介護するご家族の負担
について、獣医師の立場からお伝えします。
- 介護中の犬猫に触れる時は「急にしない」ことが大切です
- まず声をかけてから触れてみてください
- 耳が聞こえにくい子では、声かけだけでは伝わらないことがあります
- 目が見えにくい子にも「突然」は負担になることがあります
- 「前は平気だったのに触ると嫌がる」時には痛みを考えてください
- 犬猫は痛みを言葉で伝えることができません
- 「嫌がるサイン」が出たら無理に続けないことも大切です
- 抱き上げる時は「いつもと同じ」でよいとは限りません
- 大型犬では補助具を利用する方法もあります
- 寝たきりの犬猫では、同じ姿勢が長く続かないようにします
- 寝返りをする時も、急に身体をひっくり返さないでください
- 寝床は「柔らかければ柔らかいほど良い」とは限りません
- 床ずれができやすい場所を毎日確認してみてください
- 身体を拭く時にも皮膚を観察できます
- 呼吸が苦しい子は無理に姿勢を変えないでください
- 急に触られることを嫌がるようになったら「介護のせい」と決めつけないでください
- 介護中の様子は動画に残しておくと役立ちます
- 介護するご家族の身体も守ってください
- 完璧な介護を目指す必要はありません
- 毎日の触れ合いは「身体の変化を見つける時間」にもなります
- 介護中の犬猫には「その子の反応を見ながら」が一番大切です
介護中の犬猫に触れる時は「急にしない」ことが大切です
介護が必要な犬猫では、身体を自由に動かせなくなっていることがあります。
自分では逃げたり、姿勢を変えたりできない状態で、
突然身体を持ち上げられる。
急に足を動かされる。
眠っているところをいきなり触られる。
ということが起こると、驚いたり怖がったりする場合があります。
特に高齢犬・高齢猫では、視力や聴力が低下していることもあります。
そのため、
「これから身体に触れる」ということが分かるように、できるだけゆっくり関わる
ことを意識してみてください。
まず声をかけてから触れてみてください
耳が聞こえている子であれば、触れる前に優しく名前を呼んだり、普段と同じ声で話しかけたりする方法があります。
難しい言葉は必要ありません。
「今から触るよ」
「向きを変えるよ」
「身体をきれいにしようね」
というような声をかけてから身体へ触れます。
大切なのは、言葉の内容そのものよりも、
突然何かをされる状態をできるだけ減らすこと
です。
いつもの声を聞いてから触られる方が、突然身体へ手が伸びてくるより驚きにくい子もいます。
耳が聞こえにくい子では、声かけだけでは伝わらないことがあります
高齢になると、聴力が低下することがあります。
以前は名前を呼ぶと振り向いていたのに、
反応しなくなった。
眠っている時に近づいても気づかない。
急に触るとびっくりする。
という場合には、耳が聞こえにくくなっている可能性があります。
そのような子では、後ろから突然触れるより、
できるだけその子から見える方向へ回り、存在に気づいてもらってから触れる
方がよい場合があります。
ただし、急に反応が変わった場合には、年齢だけでなく耳の病気や神経系の問題などについても確認が必要です。
目が見えにくい子にも「突然」は負担になることがあります
高齢犬・高齢猫では視力が低下することもあります。
目が見えにくい状態では、
家族が近づいていることに気づかない。
突然身体へ触られて驚く。
抱き上げられる理由が分からない。
ということが起こる場合があります。
視力が低下していても耳が聞こえているのであれば、声かけが存在を知らせるひとつの方法になります。
逆に、視力と聴力の両方が低下している場合には、その子の反応を見ながら、ゆっくり存在を伝える必要があります。
「前は平気だったのに触ると嫌がる」時には痛みを考えてください
以前は撫でられることが好きだった犬猫が、
触ると顔をそむける。
身体を固くする。
唸る。
逃げようとする。
噛もうとする。
という変化をみせることがあります。
このような場合、
「歳をとって怒りっぽくなった」
だけで判断しないことが大切です。
高齢犬・高齢猫では、
関節炎。
腰や背中の痛み。
腫瘍。
歯や口の痛み。
皮膚の痛み。
その他の病気。
などによって身体へ触れられることを嫌がる場合があります。
慢性的な痛みは、必ずしも大きな声で鳴く形で現れるとは限りません。
犬猫は痛みを言葉で伝えることができません
犬や猫の痛みは、行動の変化として現れることがあります。
たとえば、
- 触ると身体を固くする
- 顔をそむける
- 耳を伏せる
- 身体を丸める
- 立ち上がりたがらない
- 寝る場所を何度も変える
- 以前より怒りっぽくなる
- 家族から離れる
- 食欲が低下する
- 毛づくろいが減る
などです。
特に猫では、痛みの変化が分かりにくい場合があります。
そのため、
「鳴かないから痛くない」
とは限りません。
普段と違う行動が続く場合には、獣医師へ相談してください。
「嫌がるサイン」が出たら無理に続けないことも大切です
介護では、
身体を拭かなければ。
寝返りをしなければ。
薬を飲ませなければ。
と思う場面があります。
ですが、犬猫が強く嫌がっている時に無理に続けると、痛みや恐怖が強くなる場合があります。
たとえば、
身体を硬くする。
息を止めるような様子をみせる。
顔をそむける。
唇をなめる。
唸る。
噛もうとする。
逃げようとする。
といった変化があれば、
「なぜ嫌がっているのか」
を一度考えてみてください。
単に嫌なのではなく、痛みがある可能性もあります。
抱き上げる時は「いつもと同じ」でよいとは限りません
介護中の犬猫では、身体の状態によって抱き上げ方にも注意が必要です。
たとえば、
骨や関節に痛みがある。
お腹に大きな病変がある。
手術後である。
呼吸が苦しい。
脊椎の病気がある。
という場合には、一般的な抱き方が適さないことがあります。
そのため、
「この子はどのように抱き上げればよいですか?」
と獣医師へ確認しておくことをおすすめします。
特に大型犬や寝たきりの犬では、ご家族だけで無理に持ち上げると、犬だけでなく介護する方が腰などを傷める可能性もあります。
大型犬では補助具を利用する方法もあります
立つことや歩くことが難しくなった大型犬では、
身体を支えるハーネス。
歩行補助具。
滑りにくいマット。
などを利用する方法があります。
どの補助具が適しているかは、
身体の大きさ。
どの足が弱っているか。
自分でどの程度立てるか。
痛みの有無。
病気。
などによって変わります。
購入する前に、獣医師やリハビリテーションを行っている施設へ相談する方法もあります。
寝たきりの犬猫では、同じ姿勢が長く続かないようにします
自分で寝返りができない犬猫では、同じ側を下にした姿勢が長時間続くことがあります。
その状態が続くと、身体の一部へ圧力がかかり続け、
皮膚が赤くなる。
毛が薄くなる。
傷ができる。
床ずれにつながる。
といった問題が起こることがあります。
そのため、身体の状態に合わせて定期的に姿勢を確認し、必要に応じて体位を変えることを考えます。
ただし、痛みや呼吸状態などによっては動かし方に注意が必要です。
寝返りを嫌がる、呼吸が苦しそうになる、強く痛がるという場合には、無理に行わず獣医師へ相談してください。
寝返りをする時も、急に身体をひっくり返さないでください
寝返りを手伝う時にも、
まず声をかける。
身体へそっと触れる。
反応を確認する。
ゆっくり姿勢を変える。
という流れを意識します。
身体の一部分だけを強く引っ張ったり、痛そうな場所へ無理に力をかけたりしないようにしてください。
その子の病気によって適切な方法は異なるため、介護が必要になった段階で、実際の身体を見ながら獣医師や動物看護師から教えてもらうのが安心です。
寝床は「柔らかければ柔らかいほど良い」とは限りません
寝たきりの犬猫には、身体を支えられる十分なクッション性のある寝床が必要です。
ただし、
あまりに柔らかく身体が沈み込みすぎると、
寝返りしにくい。
立ち上がりにくい。
身体を支えにくい。
という場合もあります。
その子の身体の大きさや動ける範囲に合わせて、寝床を選びます。
また、
濡れていないか。
汚れていないか。
しわや段差ができていないか。
も確認してください。
床ずれができやすい場所を毎日確認してみてください
寝たきりの犬猫では、
肩。
肘。
腰。
かかと周辺。
など、骨が出ていて床へ当たりやすい部分に負担がかかることがあります。
毎日身体に触れる時には、
皮膚が赤くなっていないか。
毛が薄くなっていないか。
腫れていないか。
湿っていないか。
傷になっていないか。
を確認してみてください。
皮膚の変化を早い段階で見つけることが大切です。
身体を拭く時にも皮膚を観察できます
排泄介助が必要な犬猫では、尿や便によって身体が汚れることがあります。
身体をきれいにする時には、
皮膚の赤み。
かぶれ。
傷。
腫れ。
においの変化。
なども見てみてください。
皮膚や寝床を清潔で乾いた状態に保つことは、介護中の皮膚トラブルを減らすうえで大切です。
ただし、皮膚がすでに傷になっている場合には自己判断で人用の消毒薬や軟膏を使用せず、獣医師へ相談してください。
呼吸が苦しい子は無理に姿勢を変えないでください
介護中に特に注意したいのが、呼吸です。
呼吸が苦しい犬猫では、
自分が呼吸しやすい姿勢を選んでいることがあります。
そのため、
「この姿勢では床ずれが心配だから」
という理由だけで、無理に寝かせたり姿勢を変えたりすると、呼吸がさらに苦しくなる可能性があります。
特に、
- 胸やお腹を大きく使って呼吸している
- 首を伸ばしている
- 横になれない
- 猫が口を開けて呼吸している
- 舌や歯ぐきの色がおかしい
といった場合には、介護よりも早い診療を優先してください。
急に触られることを嫌がるようになったら「介護のせい」と決めつけないでください
介護期間が長くなると、
「最近触られるのを嫌がるのは、介護されるのが嫌になったのかな」
と思うことがあります。
ですが、
痛みが強くなった。
病気が進行した。
皮膚に傷がある。
関節の動きが悪くなった。
認知機能や感覚が変化した。
という可能性もあります。
新しく起きた行動の変化には、身体的な原因が隠れていないか確認することが大切です。
介護中の様子は動画に残しておくと役立ちます
動物病院では、
普段どのように寝返りをしているか。
どの場所を触ると嫌がるか。
どう立ち上がるか。
どのように介助しているか。
を再現できないことがあります。
安全に撮影できる場合には、
寝返り。
立ち上がり。
歩行。
食事。
呼吸。
身体へ触れた時の反応。
などを短い動画にしておくと、診察の参考になることがあります。
介護するご家族の身体も守ってください
犬猫の介護では、飼い主さん側にも身体的・精神的な負担がかかることがあります。
特に、
夜中に何度も起きる。
大型犬を抱き上げる。
排泄介助を何度も行う。
食事や投薬に長い時間がかかる。
という生活が続くと、介護するご家族も疲れてしまいます。
介護方法を考える時には、
犬猫にとってよい方法であることと、ご家族が続けられる方法であること
の両方が大切です。
「一人では難しい」
「夜の介護がつらい」
「抱き上げることができない」
といったことも、獣医師へ伝えてください。
完璧な介護を目指す必要はありません
介護をしていると、
「もっと頻繁に寝返りさせないと」
「毎回ちゃんと食べさせないと」
「もっと何かしてあげなければ」
と思うことがあります。
ですが、その日の体調によってできることは変わります。
大切なのは、
決められた介護を完璧にこなすことではなく、その子の現在の状態を見ながら必要なケアを考えること
です。
痛そうなら方法を見直す。
嫌がるなら理由を考える。
呼吸がおかしければ診療を優先する。
ご家族が続けられなければ相談する。
介護方法も、その子の身体の変化に合わせて変えていくことができます。
毎日の触れ合いは「身体の変化を見つける時間」にもなります
介護中に身体へ触れる時間は、単にお世話をする時間だけではありません。
皮膚。
関節。
筋肉。
呼吸。
身体の熱さ。
痛みへの反応。
などを確認できる時間でもあります。
昨日は平気だった場所を今日は嫌がる。
新しい腫れを見つけた。
皮膚が赤くなっている。
呼吸が少し変わった。
という小さな変化に気づくことがあります。
毎日一緒にいるご家族だから気づける変化があります。
介護中の犬猫には「その子の反応を見ながら」が一番大切です
介護には、
これをすれば絶対に正しい。
この触り方ならすべての犬猫に安心。
というひとつの方法があるわけではありません。
目が見えているか。
耳が聞こえているか。
痛みがあるか。
自分で動けるか。
呼吸は楽か。
どの姿勢を好むか。
何を嫌がるか。
一頭ずつ違います。
だからこそ、
声をかける。
ゆっくり触れる。
反応を見る。
嫌がる理由を考える。
ということを大切にしてみてください。
そして、
昨日まではできた介護を今日は嫌がる。
急に触れられることを嫌がる。
寝返りすると強く痛がる。
呼吸が変わった。
という場合には、
「介護がうまくできない」
と考える前に、その子の身体の状態が変わっていないか確認することも大切です。
毎日の介護の中で感じた小さな違和感も、獣医師へ伝えてください。
※この記事は、介護中の犬猫への声かけ・触れ方・寝返りなどについて一般的な情報をお伝えするものです。適切な介助方法は、犬猫の病気・痛み・身体機能・呼吸状態などによって異なります。抱き上げ方や体位変換について不安がある場合には、実際の身体の状態を確認したうえで獣医師や動物看護師へご相談ください。
参考情報
- AAHA「2023 AAHA Senior Care Guidelines for Dogs and Cats」
- AAHA「Pain Management」
- AAHA「Communicating with Families of Senior Pets」
- AAHA「Managing the Caregiver Burden」
- AAHA「2022 AAHA Pain Management Guidelines for Dogs and Cats」
