暖かい季節になると、犬や猫と暮らす飼い主さんに特に気をつけていただきたいものがあります。
それが、**「マダニ」**です。
「草むらを少し歩いただけだから大丈夫」
「うちの猫はほとんど外に出ないから、あまり関係ないかな」
と思う方もいらっしゃるかもしれません。
ですが、マダニが問題になる理由は、犬や猫の皮膚に寄生するということだけではありません。
マダニが媒介する感染症の中には、犬猫だけでなく人にも感染する可能性がある病気があります。
そのひとつが、
SFTS(重症熱性血小板減少症候群)
です。
SFTSは、近年日本国内でも報告されている地域が広がっており、犬や猫と暮らす方にも知っておいていただきたい感染症です。
今回は獣医師の立場から、
- SFTSとはどのような病気なのか
- 犬猫ではどのような症状がみられるのか
- 犬猫から人へ感染することはあるのか
- マダニがつきやすい場所
- 犬猫にマダニを見つけたときの対処
- 日頃からできる予防
について、分かりやすくお伝えします。
SFTS(重症熱性血小板減少症候群)とは?
SFTSは、SFTSウイルスによって起こる感染症です。
主な感染経路のひとつが、SFTSウイルスを保有しているマダニに刺されることです。
人だけではなく、犬や猫でもSFTSウイルスに感染し、発症することがあります。
国内でも犬や猫の発症例が報告されています。
以前は西日本を中心に注意されてきた感染症ですが、現在では東日本での報告も増えており、全国的に注意しておきたい感染症となっています。
そのため、
「自分が住んでいる地域では聞いたことがないから大丈夫」
と考えるのではなく、普段からマダニに刺されないよう予防しておくことが大切です。
すべてのマダニがSFTSウイルスを持っているわけではありません
ここで、ひとつ知っておいていただきたいことがあります。
マダニに刺されたからといって、必ずSFTSに感染するわけではありません。
すべてのマダニがSFTSウイルスを持っているわけではないためです。
また、犬や猫の身体にマダニを見つけただけで、
「SFTSに感染してしまった」
と決まるわけでもありません。
必要以上に怖がる必要はありませんが、
マダニはSFTS以外にもさまざまな病原体を媒介する可能性があります。
だからこそ、
「刺されてから心配する」のではなく、「できるだけ刺されないように予防する」
という考え方が大切です。
犬や猫がSFTSを発症するとどんな症状が出る?
SFTSウイルスに感染しても、すべての犬猫が症状を示すわけではありません。
一方で、発症した犬や猫では、
- 発熱
- 元気がなくなる
- 食欲がなくなる
- 嘔吐
などの症状がみられることがあります。
猫では、黄疸がみられることもあります。
黄疸が起こると、白目や歯ぐき、耳の内側などが黄色っぽく見えることがあります。
ただし、これらはSFTSだけにみられる特有の症状ではありません。
食欲低下や嘔吐、元気消失などは、さまざまな病気で起こります。
そのため、
「吐いたからSFTSかもしれない」
と考える必要はありません。
一方で、
「草むらや山へ行ったあとから急に体調が悪くなった」
「マダニがついていたあとに食欲がなくなった」
など、マダニとの接触が考えられる場合には、受診時にそのことを獣医師へ伝えてください。
診断を考えるうえで、とても大切な情報になることがあります。
マダニに刺された直後に症状が出るとは限りません
マダニに刺された場合、その日のうちに症状が出るとは限りません。
そのため、犬や猫の体調が悪くなったときには、
「今日のお散歩で草むらには行っていないから、マダニは関係ない」
と判断するのではなく、少し前の行動も振り返ってみてください。
たとえば、
「少し前に山へ行った」
「キャンプへ連れて行った」
「河川敷を散歩した」
「草むらの中で遊んだ」
「庭で長い時間過ごした」
といったことがあれば、動物病院を受診する際に伝えておくとよいでしょう。
また、マダニに刺されても、被毛に隠れていて飼い主さんが気づかないこともあります。
「マダニを見ていないから絶対に違う」
とも言い切れないのです。
SFTSは犬猫から人へ感染することもあります
SFTSについて、飼い主さんに特に知っておいていただきたいことがあります。
それは、
発症した犬や猫から人へ感染したと考えられる事例が報告されている
ということです。
人がマダニに刺されることだけが感染経路ではありません。
SFTSを発症している犬猫の血液や唾液などの体液に直接触れることによって、人へ感染する可能性があります。
実際に国内では、発症した猫に咬まれたことによる感染や、発症動物の体液との接触が原因と考えられる獣医療関係者の感染事例も報告されています。
だからといって、
「体調の悪い犬猫には触らない方がいい」
ということではありません。
大切なのは、正しく知って対応することです。
もし犬や猫が急に発熱したり、食欲がなくなったり、ぐったりしている場合には、早めに動物病院へ相談してください。
マダニとの接触が考えられる場合には、そのことも忘れずに伝えましょう。
体調の悪い犬猫のお世話をするときは
SFTSが疑われる犬猫の場合、血液だけではなく唾液などの体液との接触にも注意が必要です。
特に、
- 血液や排泄物を素手で触らない
- 傷のある手で体液に触れない
- 顔や口を舐めさせない
- 咬まれたり引っかかれたりしないよう注意する
- お世話のあとは手を洗う
といった基本的な衛生管理が大切です。
犬や猫がSFTSと診断された場合には、家庭でのお世話についても必ず動物病院の指示に従ってください。
また、SFTSと診断された犬猫のお世話をしたあとに、飼い主さん自身に発熱や強い倦怠感、嘔吐・下痢などの症状が現れた場合には、早めに医療機関へ相談してください。
その際には、
「飼っている犬・猫がSFTSを発症した」
ということも医師へ伝えることが大切です。
マダニはどこにいる?
マダニというと、
「山奥にいるもの」
というイメージを持っている方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、マダニは森林や山だけではありません。
草地や藪のほか、地域によっては河川敷、公園、庭など身近な場所に生息していることがあります。
特に、
- 草むら
- 藪
- 山
- 河川敷
- キャンプ場
- 公園
- 庭
などへ行ったあとには、犬猫の身体を確認してあげましょう。
お散歩のあとに確認したい場所
マダニは被毛の中に入り込むと、すぐには気づかないことがあります。
外から帰ったあとは、ブラッシングやスキンシップをしながら全身を確認する習慣をつけておくとよいでしょう。
特に、
顔や耳の周り
首周り
脇の下
足の付け根
指の間
お腹
など、毛に隠れやすい部分は丁寧に確認してください。
マダニは吸血する前とあとで大きさが変わるため、
「皮膚に小さなできものができたと思ったら、マダニだった」
ということもあります。
気になるものを見つけたときには、無理に触らず確認してもらいましょう。
犬猫にマダニを見つけても無理に取らないでください
犬や猫の身体にマダニが食い込んでいるのを見つけると、
「早く取ってあげなければ」
と思いますよね。
ですが、無理に引っ張ったり、指で潰したりしないでください。
吸血しているマダニは、口の部分を皮膚にしっかりと食い込ませています。
無理に引き抜くと、マダニの一部が皮膚に残ってしまうことがあります。
また、素手で潰すことも避けてください。
すでにしっかり咬みついている場合には、できるだけそのままの状態で動物病院へ相談し、適切に除去してもらうことをおすすめします。
「家の中で暮らしているから大丈夫」とは限りません
完全室内飼育の猫であれば、外へ自由に出る猫と比べるとマダニに接触する機会は少なくなります。
ただし、
「室内飼育だから絶対にマダニとは無縁」
とは言い切れません。
犬がお散歩へ行くご家庭では、犬に付着して家の中へ入る可能性があります。
また、飼い主さんの衣類などに付着して持ち込まれる可能性も考えられます。
だからこそ、犬猫それぞれの生活環境に合わせて、どの程度マダニ予防が必要なのかをかかりつけの獣医師と相談することが大切です。
マダニ予防薬は定期的に
犬猫をマダニから守るためには、動物用のマダニ予防・駆除薬があります。
飲むタイプや皮膚に滴下するタイプなど、さまざまなものがあります。
ただし、
犬用・猫用で使用できる薬が異なる場合があります。
犬には使用できても、猫には使用できない成分もあります。
また、年齢や体重、健康状態、生活環境によって適した方法も変わります。
市販品を自己判断で使用するのではなく、どの予防方法がその子に合っているのか、かかりつけの獣医師へ相談してください。
特に、草むらや山、キャンプなどへ出かける機会が多い犬では、定期的な予防を心がけておきましょう。
飼い主さん自身のマダニ対策も忘れずに
犬猫だけではなく、飼い主さん自身がマダニに刺されないことも大切です。
草むらや山などへ出かける場合には、
- 長袖・長ズボンを着用する
- 足をしっかり覆う靴を履く
- 肌の露出を少なくする
- 虫よけ剤を適切に使用する
- 帰宅後は衣類や身体を確認する
などの対策を行いましょう。
ペットのマダニ予防と、人のマダニ対策。
両方を行うことで、家族全体を感染症から守ることにつながります。
マダニ対策は犬猫と家族を守るために
マダニは小さな生き物です。
ですが、マダニが媒介する感染症の中には、犬猫だけでなく人の命にも関わるものがあります。
だからといって、必要以上に怖がり、
「もう公園へ行けない」
「山には連れて行けない」
と思う必要はありません。
大切なのは、
正しく知って、できる予防をしておくことです。
定期的にマダニ予防をする。
草むらや藪では少し注意する。
外から帰ったら犬猫の身体を確認する。
いつもと違う体調の変化に気づく。
そして、マダニが食い込んでいるのを見つけても、無理に取らず動物病院へ相談する。
一つひとつは、それほど難しいことではありません。
ですが、その小さな習慣が、
大切な犬や猫、そして一緒に暮らしているご家族を守ることにつながります。
これからお散歩やキャンプ、山へのお出かけなどが増える季節には、
ぜひ一度、ご家庭のマダニ対策について確認してみてください。
獣医師
かわの わいちろう
※この記事は、犬猫のマダニおよびSFTSに関する一般的な情報をお伝えするものです。体調に異変がある場合や、犬猫にマダニが付着している場合は、かかりつけの動物病院へご相談ください。
参考情報
- 厚生労働省「重症熱性血小板減少症候群(SFTS)」
- 厚生労働省「重症熱性血小板減少症候群(SFTS)に関するQ&A」
- 国立健康危機管理研究機構「SFTSに関する情報」

コメント