■はじめに
大切な子を見送ったあと、
その子が使っていたものを前にして、何もできなくなってしまう事はありませんか。
お水の器。
お気に入りの毛布。
よく似合っていた首輪。
どれも触れた瞬間、
あの子との時間がふわっとよみがえってきて、胸がぎゅっとなる。
「まだ片付けられない…」
そんな気持ちを抱えている方へ。
■片付けられない気持ちは、とても自然なこと
あの子と一緒に過ごした日々は、生活の一部であり、人生の一部でもありました。
ごはんの時間、寝る前の習慣、
ちいさな癖や、何気ない仕草——。
“いつもの場所”の空気が変わってしまうことは、
自分の中の何かも変わってしまうようで、
心が追いつかない瞬間もあります。
それはとても自然なこと。
だから決して、おかしい事でも悪い事でもないんです。
■「片付けなきゃいけない」と思ってしまう理由
残されたものを前にすると、
心の中にいろんな声が浮かぶことがあると思います。
「ずっと置いたままじゃいけないかな」
「もう片付けたほうがいいのかな」
「“引きずってる”って思われないかな」
こうした思いは、
“片付けられない自分”を責める気持ちに、つながってしまうこともあります。
けれど、その気持ちの奥には
「あの子を大切にしてきた時間」を無くしたくない、だからそのままにしたいという想いもある。
■片付けられないのは、弱いからではない
思い出のものを手放せないのは、
心が弱いからでも、前に進めていないからでもないと、私は思っているんです。
それだけその子を大切に思い、
まっすぐに向き合ってきた証だからこそ。
あの子と過ごした時間は、
確かにそこにあって、旅立った後も存在を残したい。
その「証」に触れると、
胸が締めつけられるのは当たり前のように感じます。
■手放すタイミングは“自分の心”が決めていい
片付ける時期には、決まりはありません。
誰かの言葉に合わせる必要もないんです。
ふとした時、
「少し片付けても大丈夫かも」と感じる時がきたら、片付ければいい。
長い時間そのままにしておくほうが
心が落ち着く、という場合はそのままでもいい。
どちらも間違いではなく、あなたのペースが大切。
無理に動かなくても大丈夫、という事を分かって欲しいんです。
■残されたものは“つらさ”だけではない
あの子が使っていたものを見ると、
胸が痛くなることがありますよね。
でも同時に、
その子が安心して眠っていた姿、
嬉しそうに尻尾を振っていた時間、
そっと寄り添ってくれた夜——。
たくさんの優しい記憶が、そこに存在していると思います。
残されたものは、
悲しみを思い出させるだけのものではなく、
あなたとその子の思い出を繋ぐ、大切なものでもあるのではないでしょうか。
■焦らず、ゆっくりと
片付けるタイミングは、
あなたが決めていいんです。
焦らなくていい。
無理しなくていい。
「今はまだ、ここに置いておきたい」
その気持ちを否定せず、大切にして欲しい。
いつか心が整ったとき、
そっと動き出せれば、大丈夫なのですから。
■おわりに
大切な子と過ごした時間は、
形が変わっても、消えることはありません。
片付けられない日が続いても、
自分を責めないで下さい。それは“愛してきた時間の深さ”がそこに残っている証なのですから。
どうか、ご自身の心に優しく。
そして、あの子との思い出にも優しく。
あなたのペースでいいんです。それを忘れないでいて下さいね。
獣医師:河野 和一郎(かわの わいちろう)

